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□距離感
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付き合っているのかと聞かれると困る。
かと言って適当な付き合いで括られるような間柄でもない。
私はアイツの昔の話を知っているし、アイツは私の昔の話を知っている。
知っていてもいいと思っている。思える。

適当な距離感で適当な安心感を得られていて。

つかず離れず。
離れずつかず。

そんな感じ。

別にその関係に疑問を抱いたりとか、そういうのは無かった。
何となくこんな風なのが一生続くんかなぁくらい。


ただ



「二人は付き合ってるの?」


2人が一緒にいる時にこんな風に直球で聞かれるのは想定外だったけど。



「…突然何を言いだすかと思ったら…」


半ば呆れながらそんなことかいと思わず突っ込めば、何故か慌てだす悟くん。


「いや2人ともよく一緒に居るし、仲も良さそうだったからさ」


まぁ付き合いは長いからね。
付き合っちゃないけど。

小さく付け足すと、納得したらしい悟くんはそうなんだと頷いた。

そこで会話は終わって別の話に移る予定だった。

んだけど

「第一そんなこと興味ないし、あり得ない。」

一番予想外の人物が口を開いた。

「…なんだよー。
京だっていいトシした健全な男子なんだから少しくらいは関心あるでしょ。
それにそんなこと言ったら設楽さんが本気で怒るぞー」

茶化し半分で笑う。

笑いながら、分かんないけど泣きそうになる。
「あり得ない」だってさ。

今まで、適当に距離を測るのが暗黙の了解みたいなものだった。
だから、ここまで完全に白線を引かれることがなかった。

―なんだか今までを否定されたみたいだ。

悔しいのか淋しいのかよく分からない感覚。
それとも前までが麻痺していたのか。

「それに、そのくらいの関係、嫌いだ。」

とどめ。

駄目。もう無理。
笑えない。

なんにも言い返せないで下を向く。

そんなに下らない関係か。
そんな簡単に切り捨てられる関係か。
別に恋愛したいんじゃない。
でも、そんなんじゃない。
でも、下しか向けなかった。
向けなかった。

私はこのぬるま湯みたいな関係から抜けるのが怖いだけなんだ。
距離が変わるのが怖い。
一緒に居られないのが怖い。
京を失うのが、怖い。

…下らないな。本当に。

いい加減に痺れを切らしたらしい京が、ため息を吐いてこの場を離れる。

自分の足を睨み付けるようにして、拳を握り締める。
情けなさに押しつぶされそうになった。
泣きそうだ。

そんな私の横を京が通り過ぎる。


「なーんちゃって」


…多分そう言った。

そういえば、京は嘘吐くの人一倍うまかったな。

馬鹿かアイツ。

悪態をつきながら、結局その一言で全部精算されちゃう私は、俗に言う首ったけってことらしい。







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