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□先輩と後輩
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明日は非番だ楽しみだなぁ。

とかそんな警官としてあるまじきことで気分がウキウキしちゃっていた私のその隣で、設楽先輩が通常の15倍くらい嬉しそうににこにこしながら鼻歌を歌っていた。
テンションが高いせいなのかテンポも速い上に心なしかちょっと音が高くなっているので鼻歌を原形を留めていない。
…たぶんバラードだと思うけど、ヒップホップにしか聞こえないですよ先輩…。

「設楽先輩なにか嬉しいことでもあったんですか?」

もうこんな人が隣にいたら聞くしかないよなとか思いながら、でも結局のところ何関連の話なのかって言うのは大方予想が付いちゃっていて我ながら良いやつだな私とか自画自賛に落ち着いてみたりする。
予想通り聞かれた側の設楽先輩は、待ってましたと言うように楽しげに

「いや実は京が料理くだらないって言わなくなったんだよ」

言った。

…またケイくんですか。
まぁ、予想は付いていたんだけど。
予想通り過ぎて知らずげんなりした。

なんというか、この人はケイくんに肩入れしているきらいがある。
ケイくん>>越えられない壁>>>その他諸々、みたいな。
いやさすがにそこまでじゃないけど。
でも少なからずケイくんのことだけはやっぱり別格に扱っているのがわかる。

…きっと設楽先輩からしてみれば本当にケイくんって人は家族同然なんだろうなとか、言ってもいないのに未だにぺらぺらとケイくんのことを自慢げに話す設楽先輩を見て思う。
…っていうか長いな自慢話。

「さらに驚いたことに実は京が友達とボーリングに行くらしいんだよついこの間とはえらい違いなんだよ」
「先輩。」

そんな長い長い止めるまで続いていたであろう自慢話にストップ。
そして言う。

「そんなに喜ばしい事ならここは一著前にお祝いの品でも送ってあげればどうでしょう?」

それを聞いた先輩はちょっと驚いたようにしてから少し考え込む。

「祝いの品ねぇ…。別に俺の方に問題はないんだけど京絶対そういうの嫌がるんだよな…。」

マジで悩んでいるあたりすでに経験済みな雰囲気。

「でもでも考えても見てください。
今までの先輩の話を統合するとケイくんは感情の起伏が乏しい人なようですね。
そこで逆に考えてみるとそういうきつく当たる態度も喜びの裏返しってことになるんじゃないですか??」

「ん?そう…なのか?」

私の勢いに気押され気味の先輩。さぁもうひと押し…!

「きっとそういうことされてケイくん実はとっても嬉しいと思うんです!!」

「!!」

…落ちたな。とわかりやすい表情の起伏。
先輩、あなたはどうやらケイくんとは真逆な性格のようですね…。

「そっか!じゃあ何か買ってってやろうか」

さて、ここからが勝負。

「ところで先輩。」

「ん?」

「私、実はこの間ケイくんが好きそうなお店を見つけたんです。
そこ、ぜひ行ってみてほしいんですがなかなか入り組んだ場所にあるんです。
そこで、明日の非番、私そこに行こうと思っているんですが、先輩も一緒にどうですか?」

「お?非番ってお前わざわざそんなことのために一日使っちゃっていいのか?」

「えぇ、どうせやることもないですし。」

何食わぬ顔して即答する。いや本当はやりたいことはたくさんあるけど。でもでも。

「んー…。じゃあ悪いんだけど、お願いできるか?」


勝った……!!!!!!!!!!!


そんな風に無理やり約束を取り付けてやった。

「一日くらいケイくんじゃなくて、私のことだけを考えていてほしいですもん…!」

明日が楽しみだ。


 

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