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□don't mind
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無事にサービス学部の今日の分の授業も終わって、みんなが挨拶を交わしながら着々と帰宅の準備を整えている中。

教室の扉の外を背中越しに確認。

よし問題ない。
奴はいない。

これなら荷物を持って校門まで走れば撒けるはずだ…!!

とりあえず目の前の荷物を引っ付かんでランニングスタート…!

「奏。何してるの?」

しようと思ったら同じクラスの子に話しかけられた。
とてつもなく怪訝な顔をしている。

「え。何って。
逃走の準備。」

「あれ、あの人まだチラついてるの?」

「まだというより、日に日にエスカレートしていってるんだけど。」

「マジ?案外しつこいね」

さっきとはまた違うことで顔をゆがませた友達。
っていうか一番の被害者は私だっつーの。

なんてそんなこと言ってる暇はないんだった。

「まぁいいや。急がないと本当にあの人教室まで来るから、早く帰っちゃ」「へぇ。どなたはんが?」

ポン、と。

とてつもなく馴れ馴れしく肩に手を置かれて。

私の言葉を遮るように背後から聞こえた方言交じりの声。

振り返らないでもにやにや笑ってるのがわかる言葉選び。

完全な優位な立場からだからか、言葉に含み笑い。

とりあえず、私は血の気が引く音を聞きました。








「いい加減認めろや奏。」

ぐいと引っ張られると、自然の摂理で仕方なく雲井くんの方に傾く。
手を退かせようにもガッツリ肩に手を掛けられているので逃れようにも逃れられない…。

「うわーウルサイウルサイ頼むから離せ――……」

とりあえず雰囲気で嫌がっているのを醸し出すしかないんだけど

ガンスルーである。

というかスルーってレベルじゃなく聞こえてないんじゃないかと思う。

「っていうかそっちこそ前に断ったんだから素直に認めてよもう…」

「ふん。
いっぺん振られたくらいで諦めるのは性に合わへん。」

「じゃあ新しい恋を探すくらいの心意気を見せて!頼むから!!」

半分涙目で絶叫。

打たれ強いのはいいことって先生は言っていたけどされる方はとてつもなく迷惑だってことがよく分かった。

「うわーんなんでこんなしつこいのよアンタ―!
わけわからないー!!
普通は一回振られたらしばらく沈んでるものでしょー!?」

「なんで?
なんでってそりゃ惚れた弱みやろ」

「絶対使い方間違ってる!絶対弱ってるの私の方じゃん!」

「お前もちゃうんやないか?」

「あぅ…。」

素直に認めて黙ると雲井くんも満足したらしくて、とりあえずホールド状態からは解放された。
ううう。雲井くんデカいからホールド本当にきついんだよ…。

「ていうか本当になんで雲井くんってこんなにしつこいの?」

なんだかんだ言って雲居くんは二週間前のあの日から、学部が違うのに毎日といっていいほどしつこく絡みにやってくる。

っていうか毎日だ。

はっきり言ってそのしつこさはゴキブリ並みといっても過言じゃないと思う。
っていうかこれ、ストーカーじゃないの?ねぇ。

「やから、惚れた弱みや」

真顔でそういうわけわかんないこと言うから本当にこの人わけわかんない。
なんか初対面の時のイケメンなオーラが、今となっては蜃気楼のごとく霞がかっている。
顔はいいのに…。

「っていうか惚れた惚れたって言うけどさ。
本当に何を根拠にそんなこと言ってるのよ…。」

そう。
ほとんどあきれ気味で、なんてことの無いように聞いちゃったけど、案外前から気になっていたことだ。
なんか聞くのが怖くていままで聞けなかったけど、今日みたいに教室まで来るのは初めてで、話す時間が長くなったから思わず聞いちゃった。

私の記憶が正しければ、雲居君と会ったのは、たぶん、二週間前が初めてのはず。

「もしかして今までで会ったことあったりするの?」

「いや、あれが初めてや。」

「あ、やっぱりそうなんだ。

…いやいやそうじゃなくて。
じゃあ尚更なんでこんなことになったのよ」

「あぁ?
そないなの一目ぼれに決まっとる。」

「…。

ぶふぉ!」

噴いた。
高校女子高生が今盛大に噴いちゃった。
いまいち理解が間に合わなくてワンテンポ遅れたけど噴いちゃった。

「は…はぃ!?
ひ、一目ぼれって、は!?
少女マンガ的なあの、一目ぼれ!?」

「そうや。
朝、学校に遅刻してパンを銜えながら走ってるねぇちゃんが、曲がり角でぶつかった転校生の男子高校生にするあれや。」

「詳しい説明ありがとう!!」

どうやらお互いに言語の違いはできていないらしい。
よかった!
…いやそれはそれで問題なんだけど。

「…え。本気で?本気で一目ぼれ?」

「せやって言うとるやろ」

「だって一目ぼれって最近の男子高校生がするもんじゃないでしょ!?
第一一目ぼれって!!
あの出会い方に何を感じたのよー…。」

「ぶつかった時に頭のネジ一本抜けるからころっといっちまうんやないか?」

「そっちじゃない…!!
少女漫画の主人公の心境の方じゃない…!!」

ものすごい適当に流してる雲居君!!

「て、え、本当に?マジで一目ぼれなの?冗談じゃなくて?」

「しつこい」

「だ、だって…。
その…ごめん。あの…なんて言うか、本当にいまどきの男子高校生がその…ひと、めぼれ…。
うふ」

堪えきれませんでした!
失礼なのはわかってるけど!!だってすごい目つき悪い感じのクール系男子が真面目な顔で一目ぼれって言うんだもん!!言うんだもん!!!!

「…笑ったな?」

「いいいいいいいいや全然!!」

そして勢いのまま嘘つきましたスイマセン!

「いや今絶対笑うたやろ。」

「笑ってないです!」

「怒らへんから。」

「笑いましたスイマセン。」

怒らないらしいので白状した。
私の決心はひ弱すぎる…。

「ふーん…。」

それに納得したらしい雲井く「いひゃひゃひゃひゃ!」

めっちゃ私のほっぺた引っ張ってる!
それも真顔で!!真顔怖い!!!!
納得してなかった!怒っていらっしゃる!!

「お、おこんないっへいっはひゃん〜!(怒らないっていったじゃん)」

「あぁ?怒ってへんぞ、別に。」

「ひゃ、ひゃあ何れよー!!(じゃ、じゃあ何でよー!!)」

渾身の力で訴えると、また無言のまま頬から手を放す雲居君。
解放だ!と思ったとたん今度はぺちんと頬を挟まれた。
な、なんなんだこの傍若無人!

いろいろと同時に巡りすぎててどう抵抗すればいいのか分からなかったので顔を挟まれたまましばらくおとなしくしていると、

「…笑った顔。」

雲居くんがふいに言った。

「ふぇ?(へ?)」

「あのスカタンみたいな、だらしない顔。
それが己の惚れた理由や。」

それから、にやりと小さく笑って

「せやから、なるたけ己の前にいるときは笑うようにしとけ。」

言った。

わけがわからない。
完全にそれは彼氏彼女の間でだけ成立する会話じゃないか。

第一そんな歯の浮くような恥ずかしいセリフを顔色変えずに言えるものなのかな。

聞いてる私の方は、顔、真っ赤なのに。

本当わけわかんない。

「…なによふぉれぇ…(なによそれ)
この唯我独尊男ー…。」

負け惜しみなのはわかってるけど、なんだか悔しいので一言多めに言ってみた。

ら、
雲居くんもちょっと気を悪くしたらしい。
眉間にしわが寄ってる。
ちょっと優越感。

なんて思った矢先。

「あー…あと一個。
惚れた理由あったわー。」

思いついたように素晴らしい棒読みでそこまで言った雲井くん。

突然、

私の頬を挟んでいた手に力を入れて、グイと顔を上に向かせた、

瞬間

雲居くんの顔が目の前にあって、
それで、口になんだか暖かい感覚。

「―ッ!?!?!?」

ようやく状況を理解したときには、満足そうに口を歪めた雲居くんがにやにや笑いながら



「お前の驚いた時のそのアホ面や。」



去っていくのをただ茫然と見つめるしか出来なかったのでした。






「…もう…
 本当になんなのよ―――!!!!」

自分の顔が熱くなる音を聞きながら、苦し紛れに叫んだ。









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