君と僕。

□鈍感な君だから
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「いい加減にしろっ


涼やかな風が吹きわたる夏の屋上に、突然の怒声が響く。
少し離れた所で雲を眺め、あーだこーだ話し合っていた3人も、驚いてそちらを振り向く。
其処には、憤慨し立ち上がった要と、それを見上げる祐希の姿。

「いつもいつもそーやって俺の事からかいやがって
そんなに俺が嫌いなら、そう言えばいいだろっ」

言い終えると同時に、要は駆け出し、バンッと扉の音を立て去ってしまった。

「…どうしたんですか…?」

扉の方を眺めている祐希に、春はおず…と声をかける。
振り返った祐希は、いつも通りの無気力な表情だったが、その瞳は確かに狼狽えていた。

「要君、よく怒りますけど、あんな風に怒るの、初めて見ました…」

それを聞き、千鶴が
そうかぁ?要っち、いつもあんな感じじゃね?
と茶化すのを、悠太が無言で制す。
3対の目に見つめられ、祐希はボソッと呟く。

「…要が、いくら好きって言っても信じてくれないから…」

「キスした。」


「えぇぇええぇ

祐希の発言に春と千鶴は声を上げる。

「好きゆっきーが要っちを
「きききき、きすだなんてっ!そ、そんな…

そんな2人を一瞥し、悠太は片割れに歩み寄り、腰を下ろして視線を合わせる。

「追いかけないの?」

悠太の言葉に、祐希はうなだれ答える。

「絶対、嫌われた…。やっぱりキスするんじゃ…言うんじゃなかった…」

「大丈夫。」

静かに、悠太は続ける。

「…要は祐希の事好きだよ。友達としてじゃなく、恋愛対象として。」
「…何で、そんな事、」
「長い付き合いですからね。」

祐希がゆっくりと顔を上げると、悠太は微かに笑みを浮かべる。

「大丈夫。ほら、早く行かないと本当に駄目になるよ。」

最後の一押しに、祐希は立ち上がり、駆け出す。
扉が閉まるのを見て、悠太は息を吐く。

「いいんですか?」

見ると、春が悲しげな顔をしている。

「何が?」

悠太は表情を変えずに問い返す。
恐らく意図を察してはいるだろうに。

「悠太君も好きなんでしょう?要君の事…」

すると、観念したようにフゥ、と息を吐く。

「よく分かったね。…祐希も気付かなかったのに。」
「僕も、長い付き合いですから。」

そう言って、痛そうに笑った。


あの2人は、鈍感だからね。
悠太は独り言のようにごちた。



→あとがき
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