ボカロ

□据え膳
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頭が痛い。身体がだるい。

ここ数日、バイトやら家事やら課題やらで休めていなかったのがキタのだろう。

しかし、親が不在の今、長男である俺がしっかりしなければならない。
弱っているところを見せて、皆に心配を掛けてはいけない。
身体に鞭を打ち、支度をして階下へ降りて行く。

「あれ、めーちゃん。今日は早いね。」

リビングに入ると、仕事から帰ったばかりであろう姉がいた。

「あぁ、うん。」

座りながらコーヒーを啜っていためーちゃんが、こちらをじっと見つめる。

「……?何?」

何か悪いことをしてしまったのかと、思わずドギマギする。

「カイト……あんた大丈夫?」

知ってる。一見不機嫌そうに見えるこの表情は、本気で心配してくれているものだと。

「大丈夫だよ。昨日ちょっと夜更かししたから、寝不足なだけ。」

へら、ときっとこの鋭い姉には利かないであろう作り笑顔を浮かべる。

「…そ。あんま無理すんじゃないわよ。」

肩を軽く叩き、めーちゃんはリビングを出て行く。

「…………。」

やはり適わない。



その後、何とかいつも通りの朝を過ごし、学校へと向かう。




大学には駅まで自転車で15分、電車に乗って10分、それから更に30分歩いて行く。
今の自分にはきつい道のりだったが、無事たどり着いた。が、

…しんどい…。

近くの木に手をつき、一休みする。


「カイト…?」

ふいに背後から名を呼ばれ、振り向くと

「あ、先輩、おはようございます。」

そこには、中学時代からの先輩である、神威がくぽ先輩が。

「どうした?顔色が悪いぞ」

「あ、いえ、大丈夫です。少し寝不足なだけですから…。」

この人はめーちゃんと同じくらい鋭い。
慌てて取り繕う。

「大丈夫じゃない。」

「え…?」

先輩は俺の腕を掴み、引っ張る。
そして、今来た道を戻って行く。

「せ、先輩…?」

「そんな今にも倒れそうな顔して、何が『大丈夫』だ。どうせ、家族に心配を掛けたくなくて、無理してるんだろう。」

「…………。」

そうして連れて行かれたのは、大学からそんなに離れていない、先輩の住むアパート。

「今日は泊まるといい。」

てきぱきと、ベッドメイキングをしながらそう告げる先輩。

「え…でも…」

「帰ったら無理するだろう。それじゃあ治るものも治らない。心配、掛けなくないんだろう?」

だったらさっさと治せ、と続け、俺をベッドへと押し込む。
ふわっと全身が先輩の匂いに包まれる。

「お前以外にも家事出来る者はいるんだろう?」

「あ、はい。めーちゃ…姉と上の妹が分担すれば一通りは…。」

「ん、なら大丈夫だな。
電話、出来るか?」
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