Lily

□交錯
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「ゆすら、私のことをどう思う?」
「…珍しい。どうしたのいきなり?」
ある昼下がり、彼女は私に訊いた。
「それ、凄く愚問。一緒に生きてきて今年で何年? 100年越えてんのよ」

私と彼女は長くともにいる。出会いは残飯を漁っていた恋次と一緒にいたところを声かけた時。常に命からがら毎日を送っている二人からすれば余裕そうにしていた私は実に危ない裏の人間に見えたらしい。もちろん私は人身売買など行ったことないが。ボロいとはいえ戌吊にしてはしっかりとした寝床を提供した私はもちろん不審がられたし、まず一ヶ月は半径1m以内には風邪をひいたときでさえ入れてくれなかった。あのときはもう本当に泣きそうになった。ただ今はこうやって受け入れられている。

「当時は二人に好かれようと雨のなか傘もなく遠くまで走ったくらい好き。今はルキアがいなくなったら私も後を追ってしまうくらい大好き」
「っ!? そ、そうか……」
「今さら何言ってるの。私もうルキアなしじゃいられない……あはは。これなんか告白みたいね」
「わ、私は嬉しいぞ!」
「クスクス…。知ってるっ」

横に顔をむけ微笑む顔の素敵なこと。顔を赤らめうつむくルキアにゆすらは横から抱きついた。

「ついでに私も訊きたいな。ルキアは私のことどう思う?」
「な? 私だって…いや私は……もっと、その」
「ルキアちゃん聞こえな〜い」
「ええい! もう言わん。私は言わんぞ」
「え!? 何それ意味わからない!」

突如ゆすらの体を振り払うよう身動きをするがまるで言うまで離さんと言わんばかりにがっちりと締め付ける腕。ルキアはゆすらの表情を確認すると再度背を向け暴れだす。するとふいに巻き付いていた腕がなくなり気がついて後ろを向くとそこにいたのは一文字に唇を噛みしめるゆすらだった。

「す、すまぬゆすら。これは誤解で…」
「私、ルキアの気持ち全然考えていなかったね。ごめん。ごめんなさい、…朽木さん」



その瞬間からわたしたちはおかしくなったのだろう。次の日から私たちは距離をとった。もちろん恋次に気づかれ問い詰められたが普段より意気消沈した 私の姿を見ると一声で去るのだった。
その後私は現世任務となり、崩玉をこの胸に埋められているとは知らずに連行という形で瀞霊廷に戻ってきた。もちろん死刑囚となった私にゆすらがあいに来るはずもなく、一護たち旅禍の乱入はあったとはいえ死刑の時を迎えた。 私は間抜けでなんと愚かなのだろうか。生きることを諦めていなければこんなことにはならなかったのだ。私と兄様を守ったのはゆすらだった。
突然の侵入に藍染は驚いていたが、すぐに表情を戻すと優しくゆすらの頭をなで横たわらせ、反膜で虚圏へと消えていった。ゆすらを見つめながら。
その事実に私の腸は煮えくりかえ沸騰するかのようだった。つまり私自身今までこの感情が何故起きたのかと気がついてすらいなかった物が今わかったのだ。
これは嫉妬だと。私の知らない姿を反逆者藍染は知っている。知った今私の心の臓が締め付けられるように酷く窮屈になった。

その後の隊首会で私は隊に戻れることとなり、藍染に警戒しながらも再び以前の生活を取り戻した。しかし以前と違うものがある。それはゆすらとの関係をかえることを強く望む私の心だ。あの時自覚した感情をほおって置ける筈もなく、回復した後私はゆすらの元へと歩いて行った。




私は酷く憂鬱だった。あの藍染の反逆のときに私は彼ら二人を庇い、重傷を負った。意識を取り戻した直後から、庇うことでしか守れなかった自身の無謀な行動のことや、彼女に要らぬ面倒をかけた己への自己嫌悪の嵐に苛まれ、心も疲れた。情けない。非力な己が。

「好きだから、守りたかった」
「守ってくれたではないか。私も、兄も」

突然の声に私は屋根から起き上がり後ろを振り向いた。するとそこにいたのは腕組をしたルキアだった。急な人の声にはもちろんのこと、まさかの想い人の登場には飛び起きるくらい驚いた。

「る、きあ…?」
「ゆすら」

ルキアの細い腕が私の腰を後ろから包み込み、私は咄嗟に体を強張らせ丸まった。だがルキアはお構いなしにさらに力を込める。何が何だか全く状況を把握できない私は声を発した。

「ルキア…下、いこう」
「もともとそのつもりだ」
「!?。ッひ……。る、ルキア!」
「舌を噛むな」

一息の間に私の体は下の窓を使って自分の部屋の中へと降ろされた。あまりのことに胸元を手繰り寄せしがみついていた様子が面白かったのか頭上から含み笑いが聞こえる。なんか哀しい。

「すまぬな。可愛かったものだからつい、な」

予想外の言葉に思わずクエスチョンを浮かべる。え? 誰が? といったように首を傾げる私をルキアは私を寝室のふとんに降ろし、苦笑しながら前から、

「お前がに決まっておろう」

ふわりと抱きついた。
彼女が私の元を訪れるのは想定していた。自身に仲が良いと云えずともそれなりの仲を持っている彼女なら確実に直ぐ様来るだろうと。だが此れは何だ。何故彼女は私の胸元に顔を埋め、後ろに腕を回すのだろうか。こんなにも、一生懸命に…。何故彼女は私に…か、可愛いと…囁いたのだろうか。こんなにも当たり前かのように。意味が分からない。私には理解できない。一体君は…。
私は震える声を悟られぬよう手に力を込め尋ねた。

「貴女は…私が嫌いなんでしょ?」

すると彼女は回していた手から背に爪を立て痛みに顔をしかめる私の表情に満足げに微笑んだ。

「ふふっ…。可笑しな話だ。私はその言葉を否定したくて…こんなにもお前の身体に己の証を遺したがっている」
「そうか。…なら残してよ。私も貴女の…ルキアからの証がほしくて堪らないの」

私も彼女の背に腕を回すと囁いた。

「貴女も私を好いていたんだね」

くだらない。なんて滑稽だ。仲違いせど、求めていたものは同じものだったのだ。



「お前が死にそうになって初めて自覚したのだ。好いているなんてものではない。寧ろ、自分が怖くなるほどにお前を愛していると。お前が此処に生きていることにこれほどまでに神に感謝をしたことはない」

お前が生きていてくれてよかった。

「私もよ。非力ながらもルキアを助けられたことに感謝したい」
「たわけ。それはゆすら自身の力だろう。いったい誰に感謝をするというのだ」
「それはルキアだよ。ルキアという大切な存在に感謝をしたい。愛おしくて守りたいルキアとという存在がいたから私は力を出せた。ということは決して一人の力ではないんだよ」
「そうか」

互いに同じふとんに寝そべり身体を寄せあう。温もりが愛しくて心地よい。顔をほんのり赤らめるルキアを己の腕に包み込む。

「ルキア、愛してる」
「私も愛している。ゆすら」




さて、明日からどうしようか。隊の復帰まで二人ともまだ一週間の余裕がある。想い人となった人とすることといえばあれだがさすがにそれだけというわけもないし。…そうだ。

「ルキア」
「何だ?」
「明日デートをしよう」
「でぇと?」
「現世の言葉でね、恋人どうしが買い物したり散歩したり遊んだりとまあ楽しむことをさすんだよ」
「ほほう。ゆすらは物知りだな」
「まあね」

したことがあるという言葉を呑み込みルキアの髪をいじる。

「では今日はどうするのだ?」

ああ、と頷いた私はルキアの腰に手を回し赤らめる顔にキスを落とすと口の端を持ち上げいい放った。

「今日はお家デート。だって折角恋人になったのだし、こうやってルキアを感じていたい」
「わ、私もだ!」

ぎゅっと服にしがみつくルキアは恥ずかしいのか赤らめた顔に瞳を潤ませる。
…ヤバい。こ、れ、は。

「ルキア、もっと言って」
「え? あ、その…」
「ルキアが言ったら私も言う」
「ゆ、ゆすら!」

ああ…可愛い。

「もうダメ。貴女は私の。堪らなく愛おしくて…貴女が言うまで待つなんて無理。野暮だったよ」

もう我慢できない。

「ねえルキア」
「な、何だ?」
「キスしても、良い?」
「……」
「…やっぱまだ早いかな?」
「……なことない」
「ん?」
「ゆすら」

ちゅっと可愛い音とともに私は唇に口づけを落されていた。後頭部は彼女のその真白な手に押さえつけられ動こうにも動かせない。

「は、ぁ……る、きァ…」

小さな唇が離れると頬に首筋に、目尻にと至るとこにキスを落とされ淡い桃色の痕が散る。

「ゆすら」
「ん…ッ」

耳の弱い私が愛しい人の甘い低音に堕ちるのは当たり前で、腰が砕け少し荒くなった息を整えようとしている様子に彼女はニヤリと端を持ち上げ耳のそばに口元をよせると楽しそうに言った。

「そういえばゆすらは耳が弱かったのだよな」
「うう…。しゃべらないで…。てか何で知って…」
「たわけ。何年一緒にいたくらい知っておろう」

人差し指で首から鎖骨、胸元へと下ろされる感覚に、身体を小動物のように震わせ縮こまる私を見てルキアは目を妖しく細め耳を舐めた。

「ふぁんッ!」
「……」
「る、きァぁ…」

思いもよらぬまさかの弱点攻撃による形勢逆転にゆすらは何処で間違ったのかと思考を巡らそうとするが、胸元から入れられた少し冷えた手にピクリと跳ねてしまいそれも儚く終わる。

「ゆすら」
「ん、ぁあ」
「私は…お前の思っている以上に、ゆすらを…感じたいんだ」
「ル、キァぁ…」
「もっと、もっと。私の手で、私だけに泣いてくれ」
「ル、キ…、愛して…る」
「ああ私もだ。誰よりもゆすらのことを思っている」




ああ 愛している
ゆすら





「次は私にさせてよね、ルキア」
「生憎私はゆすらを攻めるほうが好きでな。まあ自由で良いのではないか? 攻められればの話だが」
「(なんか無理そうな気がしてきた)」


その後思わぬ来客者に飛び起きるのは別の話。







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