Lily

□偽り
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私の刀は「心気楼」という変わった名を持つ。能力は幻覚は幻覚だが、その幻覚が変わったもので、対象となった人物は本人が奥底に思う喜怒哀楽を呼び起こす幻覚を刀の持ち主の意思決定により見させられる。最高にたちの悪い刀だった。
ただその力を知るものはごく少ない。知るのは隊長格の者のみ。正直私は死神などなりたくなかった。力が判明し監視される生活。なんて素敵に最悪でしょうか。監視下に置かれた自分のろくでもない現状が……憎いのでもなく、ただただ哀しくて堪らなかった。

「5番隊第6席高瀬殿はおられるか」
「あ、はい。こちらに」

階下から暑苦しい声を耳にした私は別段用を心得ていたから、直ぐ様に屋根から飛び降り瞬歩で10番隊へと向かった。

「ゆすら、お茶しましょっ」
「君は変わっているな。また性懲りもなく私を呼ぶのだから」

狭い和室のちゃぶ台に出されたお茶うけに流し目すると、薄い桃色に白い雌花があしらわれた和菓子をざっくりと四等分しそのうちのひとつを口に運んだ。

「あら。友だち呼ぶのは変じゃないでしょ。貴女こそ変わっているんじゃない? こ〜んなにも私が友だちアピールしてるのに受け流すんだから」
「可笑しなことをぬかすな。どうせまた書類の手伝いだろう」
「あはは〜。バレちゃった? ごめんなさいね。また頼むわ」

近くにあった木製の箱から出てきたものはとうに期限がすぎていような紙の束。口の端をひきつらせる私に目の前の女性はさらにと、次々と紙の束を畳に並べていった。
並べ終えるとその女性は切った和菓子を私の口の中にほおり込みお茶を差しだし手を擦り合わせた。

「いや〜。いつもすまないわねゆすら」
「いやあんたにはもう慣れたよ」

すると彼女は頬を膨らませ髪をさらりと後ろに流し言い放った。

「いやねぇ。名前で読んでっていつも言っているでしょ」
「ああ、そうだったな。乱菊」
「んふふ〜。ようやく呼んでくれたわね。全く。前会ったときは一回も呼んでくれなかったんだから」
「仮にもあんたは副隊長だし本当はこうして同じ部屋にいるのも気まずいと云うのに」
「あーまたあんたって言った! 気を付けなさい! べつに実力はあんたのほうが上なんだから良いじゃない。隠してるあんたたちが可笑しいのよ」
「(あんたもあんた言っているじゃないか…)
 仕方ないだろう。私の力はあまり知られてはいけないのだから」
「…そういうものなのかしらねぇー」

もくもくと書類を片付ける私を尻目にもくもくと菓子を口に運ぶ彼女に失笑をした。

こうして書類の手伝いという名目でなければ監視下にいる私は彼女とは会えないのだ。彼女はそれを分かっているのか否か私によく書類整理などを頼む。しかしあの様子じゃ無意識か。

「ゆすらとはお酒呑みに行きたいんだけど…やっぱ無理よ、ねえ」

なんだ。わかっていたのか。
やっぱり君は…。



「やっぱり君は…


        」

「ん? 何か言ったかしら?」
「いや別に」

だらりと畳に寝そべる彼女に投げ掛けた言葉は窓から入ってきた風に流された。

「あら、春一番かしら」
「そうだね」
「そうと決まったらさっそく花見の計画をたてなくちゃ!」

目が覚めたかのようがばりと起き上がった彼女は筆ペンを手に紙を取りだしメモをし出す。

「花見か…呑みすぎるなよ乱菊」
「そうなったらゆすらに止めてもらうから平気よ」
「…馬鹿をいうな」

軟禁じょうたいの私は行けないというのに。
しかしふふと小さく笑う彼女はちゃぶ台に肘をつき笑みを浮かべたまま。

「薄気味悪いな」
「酷いこと言わないの」

とたん引き戸がガラリと開けられそこにいたのはさっき見た隊士だった。何事かと目を見開いた私に男はこう言った。

「いや〜高瀬殿、探しましたぞ!」
「君は乱菊のパシりだった筈。違う用だったのか?」
「パ、パシり…」

一度男はがっかりと項垂れたが直ぐ様用件を思い出したのか顔をガバッと上げ、乱菊を気にしながら耳元で小声で言った。

「その…総隊長がお呼びです」
「…え?」

地獄蝶を使わなかったのは私が霊圧を必要以上に圧し殺しているからとかはどうでもいい。ただ、え? 総隊長? 何が何だか意味のわからない私に乱菊は言った。

「ほら、さっさと行きなさい」
「乱菊…知ってたの?」
「そりゃまぁー。赤飯炊いて待ってるわ!」
「は? まさか…」

「花見が楽しみね、ゆすら」











「死神となり席官として努めを果たしたお主の実績を認め、軟禁を解除とし、正式に死神として迎えることとしよう。あ、花見はワシも行くからの、ゆすら」




「ありがと、じいちゃん」










「ゆすら、さあ酒を呑みにいくわよ」
「興味ないのだが」
「あんたの酔う姿が楽しみすぎて… (あーんなことや、こーんなことを…) うふふ。食べちゃいたい」
「……(こんな私のどこが良いのか)」








やっぱり君は変わっているな











花見まであと三週間の、
ある昼下がりのこと。









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