Lily

□潤曖
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外にも春一番が流れゆきそろそろ春コートかななんて考える私。初めまして。12歳です。見た目は。…こういう馬鹿みたいな目に会うなんて思っても見なかった。そうなんだよね。俗に云うトリップとやらをしてしまって…孤児(チャイルドエラー)として生まれ変わり早12年。精神年齢。

「ふふ…。…30」

18の精神年齢で世話と謂えど恥部を他人に晒し死ぬほどの努力の甲斐あり2年でおむつ卒業。他人は知らんが私本当頑張ったよね、うん。他の子に気味が悪がられながらもたいした苛めもなく平和に過ぎ12年。ついに…この時が来たのだ。

「っくぅ〜ッ。
 (新たなる我が家よっ)」

施設卒業の時が!

嬉しいことにこの学園都市ではチャイルドエラーは普段(実験に使う)の礼も兼ねてか学業に必要な物事は全て無償提供される。もちろん最低限だが理事会から無下に扱われることもなく私はのんびり気ままに学生ライフよもう一度というわけだ。
まあ色々と打ち込まれた実験は面倒だったけど特に変化の出なかった私はすぐにポイ捨て。一応能力はあるんですがね。なぜ回避できたかって? …私は一方通行(アクセラレータ)さんたち普通の子供とは違い、見た目3、4歳とはいえ青年並みの頭脳のあった私はその実験の目的を理解していたので、彼らの前では当たり前に無能力者を振る舞っていたのですよ。いや本当幸運に感謝だねこりゃ。

そんなこんなで地図を両手に広げた私はあるひとつの寮の前に立っていた。白い外壁に赤茶の屋根のよくある定番なマンション。

「ここか」

それなりに最新式なエレベーターを使い上へ上へと上がるとチン、と短い音が鳴り響き外へと足を出す。うん。前世と似ててなんか感激。私のいた施設、無駄に最新式だったからね。
コロコロのキャスターのついた鞄を引きずるとひとつの部屋の前についた。表札をみる。そして私は絶句した。

【佐天】

まさかのまさかですか。私原作介入ですか。…まっさかぁ。確率ヤバいって。私あの彼みたいにそんな不幸体質じゃないんですけど。あれ。でも実験にされたから不幸なん? でもそんなに不幸と感じたことないし。でも普通に考えたらまずトリップの時点でないよね? ああ、ないのかそうか。私運ないのか。しかし人によっては幸運どころか天国。でも私木山先生派。てか将来の被害者じゃん。うぇ? フラグ立ったんじゃないすかこれ?

ひきつりそうになる口の端の筋肉をなんとか落ち着かせ息を思い切り深く吸う。そして意を決し片手の人差し指をたてインターホンをゆっくりと押した。

「……」
『……』
「……」
『……』
「……留守?」

…あの教師め。まさか教えてないな。ぐぉお! と唸りそうになりながらも人目を気にするチキンの私は必死に我慢し震える。その様子も充分変なのだが。

「とりあえず…鞄だけでも」

指紋認証などの鍵登録は有難いことに上部により既にされているため私はこの鞄を入れるためだけですむ。ただ認証を済ませ部屋に入ったは
良いがさて。私はふたつの扉のうちどちらが自分の部屋か確認するには、そう。覗くしかない。まいった。実にまいった。私はもちろん変なことなど考えてはいない。体質的に健全とは程遠いが心は健全なつもりだ。思春期のレディの部屋を覗き見るなんて非紳士なことはしないのだ。しかし困った。私はどうしたら部屋に入れるのか。…匂い? ……変態か私は。
頭を抱え玄関に座り込む。うつむき眉間にしわを寄せる。そのときだった。私の目に飛び込んできた驚愕のブツは。

「段ボールの……カスッ!」


「高瀬…さん?」

なんだ。
死亡フラグ既に立ってたや。




彼女の前で発した初言葉に私は遠い目で自分の部屋をみつめた。





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