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純情なあの子に接する
五つの方法
この度、彼女が出来まして。
良く笑い、良く照れ、良く食べる、私よりも一回り小さな可愛いらしい方です。
出会いはまさかの、偶然歩道でぶつかって私の方から一目惚れ、というベタなアレでして。
連絡先を交換し、何度か逢瀬を重ね、晴れてこの度、というわけで、喜びのあまり、咽び泣く次第でございます。
しかし彼女の口からは、俄には信じ難い言葉が飛び出したのです。
「私、男の人とお付き合いするの、初めてなんです。」
初な彼女を、自分なりに、心底大事に、大事に、していきたい次第で。
STEP3>>初めてのキス編
今日こそは!
彼女に会う度、すがる思いで胸に誓う。そして、今回こそはなんとかなるのではないか!と思ったりするが、結局なんともならずに時が過ぎる。
次こそは!
もて余した微熱心地を、胸の内にむんずとしまい込み、アセルナアセルナと半ばうわ言のように自分に言い聞かせながら、悶々と眠れぬ夜を越える。
こんなことばかり、ひたすらループにループを重ね、果たして今は何巡目なのかということは、願わくは尋ねてくれるな、という状態で。
勿論、そういう機会が無かったわけではない。
ふとした瞬間、言葉なくとも交わされる視線。揺れる彼女の瞳に惹かれるままに、唇を寄せたことも幾度かあったけれども、いかんせん、その度彼女は顔を伏せてしまうのだった。
『……ごめんなさい、』
しょげた声で呟いて、私の胸に顔を埋める彼女。宥めるように頭を撫でながら、これはこれで可愛いではないか、なんて思ってしまうあたり、自分も相当彼女に甘い。
しかしながら、私を好きだ、とはにかむように笑う、健気なその唇に、せめて触れることが出来たなら。その思いは日々募るばかりで。
そしてそれは、どうやらある日、ついに限界を越えてしまったらしい。
「キス、を…」
「………え?」
私の言葉に、向かい合った彼女がキョトンとした表情でこちらを見上げる。
「…キスを、してもいいですか?」
「………」
彼女のマンションの前。別れの直前。寂しげに微笑む彼女を目にした時、ふいに口から溢れてしまったのだ。
初夏の風が過ぎ行く時間を惜しむように、引き留める素振りで彼女の髪を揺らす。今の私のように、戸惑いの色を滲ませて。
しかし案の定、というべきか、彼女は顔を赤くしたまま、ポカンと私を見上げるばかりで。
何もこんなにも正統に、真正面から尋ねたりしなくとも、隙アリとばかりにその唇を奪ってみせることは幾らでも出来た。
しかし純情な彼女を前に、その考えは愚かであることを悟る。それは独りよがりでしかないことを思い知る。
大切に、大切に、歩いていきたいから。
「…………。」
また、今日も、
すっかり黙りこみ、目を伏せてしまった彼女の髪をなるべく優しくすきながら、また今日を諦める。が、ちょうどその時、
「……は、い…。」
彼女が小さく呟いた。
「…え?」
「……ずっと、思っていたのですが…なかなか…。でも、私だって…アグニさんに、触れられたいって…そんなふうに思ったりもするんです。」
「………。」
消えそうな声が、淡く甘く脳に滲んだ。彼女も同じく、私を求めてくれていたのだと思うと、たちまち胸が熱くなった。
伏せられていた彼女の瞳が持ち上がり、私を真っ直ぐに見上げた。透き通る瞳が、屈折の感情を見せずにただ一途に私に向けられている。
「…アグニ、さん…。」
「っ、」
そんな風に名前を呼ばれたら、込み上げる愛しさを形にせずには、いられなくなる。
手繰り寄せるように彼女の頬に手を添えて、思いのままに唇を重ねた。彼女の肩が、少し跳ねた。
伝わる熱や、込み上げる愛しさに目眩がした。みるみる内に甘やかな感情に支配される。
何もかもが満たされた、そんな気持ちで泣きたくなった。
「ん…、」
「………っ、」
しかしながら、いざ、触れてみたならば、柔らかな感触と、彼女への溢れる思いとで、思わず心の奥で欲望という独りよがりの感情が頭をもたげる。
しかし感情のままに、この欲望の底へ彼女を連れていってはいけない。まだ、自分は、大人であるべきで。少なくともいまは、まだ、と思い止まり、そっと彼女から離れる。
彼女はと言うと、肩の力が抜けたようにヘタリと私の胸に頭を預けた。とくとくと心地よい胸の鼓動を感じながら、彼女を胸へと包み込む。
「大丈夫ですか?」
「……だいじょばないです…。」
彼女はそう言って、ぎゅっと頭を押し付ける。彼女の不思議な言葉に思わず、何ですかそれは、と笑えば、胸の中の彼女も、少しだけ笑った気がした。
「…でも、幸せです。」
「…私もです。」
ぎこちない仕草で背中に回された手がくすぐったい。少しだけ、我が儘をねだるつもりで彼女の髪を撫でながら、もう一度、と囁けば、彼女は肩を跳ねさせて胸の中から私を見上げた。
「……なんか、今日のアグニさんはちょっと強引…。」
腑に落ちない表情で困ったように呟くも、朱に染まった頬では説得力がまるでない。
「…イヤ、ですか?」
こんな私は、と、からかう素振りで尋ねれば、まごつくように視線を游がせる彼女。迷った後に小さな声で、イヤじゃないです、なんて答えてくれるものだから、もう、一体、どうしたものだろうか。
手に余る愛しさだ、と途方もない気持ちになってそっと息を吐く。繋がれた手の、重ねられた唇の、もっとその先へ。いつかはきっと貴女を連れて行く、その日まで。
君とおなじ歩幅で、間違わない速度で。
そんなことを、胸の中の彼女にそっと誓い、触れるだけのキスを頬に落とした。
STEP3>>初めてのキス編
舌入れたい、
のをグッと我慢!
(今はまだ、大人の男を装って、)