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純情なあの子に接する
五つの方法
この度、彼女が出来まして。
良く笑い、良く照れ、良く食べる、私よりも一回り小さな可愛いらしい方です。
出会いはまさかの、偶然歩道でぶつかって私の方から一目惚れ、というベタなアレでして。
連絡先を交換し、何度か逢瀬を重ね、晴れてこの度、というわけで、喜びのあまり、咽び泣く次第でございます。
しかし彼女の口からは、俄には信じ難い言葉が飛び出したのです。
「私、男の人とお付き合いするの、初めてなんです。」
初な彼女を、自分なりに、心底大事に、大事に、していきたい次第で。
STEP4>>初めてのお風呂編
彼女の雨女っぷりが見事なまでに発揮されたのは、よく晴れたある日のことだった。
磨かれたように冴え渡っていた青空が急にぐずりだし、果ては雷まで響く大雨に。
当然ながら傘など持ち合わせていない私達は、さながら青春映画のように降りしきる雨の中を、二人して走る、走る。
「痛い!雨粒が痛い!そして重い!」
「本当に。肌に、刺さるようですね!」
肩を並べて走っているにも関わらず、バタバタとコンクリートを叩く雨の音に負けないようにと二人して自然と声を張り上げる。
幸い彼女は何を予期していたのか、いつもの華奢なヒールではなく、走り易そうなスニーカーに、夏らしい涼しげなパンツスタイルで。
今更遅いがとりあえず傘を買おうと、ずぶ濡れのままコンビニに飛び込んだ。
「一本で大丈夫ですか?」
「一本で、大丈夫です。」
なるべく大きなものを選ぶ傘は、どれもさしながらに空の見えるビニール仕様で。適当なものを選び、手に取る。
ふと目を離せば目的を忘れ、アイスクリームを物色している彼女の姿。その後ろ姿を見て、傘をレジに持っていく手がハタと止まる。
当たり前だが上から下まで溺れたようにびっしょりな彼女は、水を含んだ白いシャツが透けて肌にピタリと寄り添い、下着の色が淡く浮かびあがっている。慌てて彼女に駆け寄った。
「鞄を、胸の前で持ってください!」
「え?何で…「何でもです!!」
有無を言わせぬ勢いでグイと彼女に鞄を胸の前で持たせる。すると彼女も自分の今の状況に気付いたのか、わ、っと口の中で驚き、すみません、と伏し目がちに呟いた。
「マンションに着いたらシャワーをお貸ししますから。」
「え…で、でも…、」
「でも、じゃありません。そのままでは夏とはいえ風邪をひいてしまいます。」
「う……はい。」
私の言葉に眉をしかめ渋々頷いた彼女の頭を撫でる。
服が乾くまで、着るものはなんとか提供出来るとして、問題は下着だ。なので、まだ顔の赤い彼女を煽ってしまうようで申し訳なかったのだが、下着も一緒に購入しておきましょう、と説得し再び土砂降りの雨の中一つの傘をさして私のマンションへと向かった。
「ちょっと待っていて下さい、タオルとって来ますんで。」
ひとまず彼女を玄関に待たせ、タオルとマットを取りに先に部屋へと入る。
「お待たせしました。」
「あ、すみません。」
「っ…、いえ…、」
しっとりと濡れた髪や透けた白い肌、華奢ながらに女性らしい曲線が露にうつしだされている彼女の身体を真正面から見てしまった私は、今更のように息を飲む。
その姿は、今まで無理矢理に押し留めていた熱を疼かせるには充分なもので。
困ったように笑い私からタオルを受け取ろうとする彼女に、そんな焦りを悟られまいと頭からタオルを被せ、なるべく視線を反らし水気をふくことに集中する。
「わ、アグニさん?」
「びしょ濡れですよ?まぁ、当たり前ですけど。」
「アグニさんだって。」
はにかむように見上げる彼女の表情に、直のこと気持ちが煽られる。早く、早く彼女をバスルームへ!と、くらくらとする頭の中で、理性の声が警告をならす。
「着替えとタオル、用意しておきますから、先にシャワーを…」
「へ?そんな、アグニさんが先ですよ。」
「私は後で構いませんから…。」
「駄目です!だって、アグニさん、明後日には、お得意様のパーティー料理を作らなきゃいけないのでしょう?それもわざわざ名指しでご指名されているんだから、アグニさんが風邪をひいたら困る人が沢山出てきます。」
「そんな、私は、大丈夫ですから…!」
「大丈夫じゃないです、アグニさんが先です!」
彼女は断固として譲らない様子で。
しかし私としても、自分の身よりも目の前の彼女の方がいくらも大切なわけで。
このままでは拉致があかず、かつ糸一本でなんとか繋がっている理性が、いつパツンとなってしまうやも分からない。
彼女が風邪を引くこと。
彼女の気持ちを優先せずに、自分の思いのままに抱いてしまうこと。
今この状況においてそれだけは、あってはならない。ならば、と、とっさに思い付いたことを、口にしてみることにした。
「…分かりました。では、一緒に入りましょうか。」
「…………は、い?」
思った通りの反応。彼女は、口を開け、私を見上げたままに硬直している。タオルで彼女の頭を拭きながらなるべくゆっくりと言葉を紡ぐ。
「貴方は私に先に入ってほしい。私は貴方に先に入ってほしい、そうですよね?」
「………は、はぁ…、」
「双方が妥協しないのならば、双方の意見を尊重させる方法をとらなければ。」
「…え、…でも……、」
「一緒に、入りましょう?」
「っ、や……、」
すでに赤い彼女の顔をのぞきこみ、顔にかかった髪を耳にかけてやる。戸惑うように揺れる瞳は、酷くいたたまれなく、こちらの加虐心をいたく煽る。故に、このまま向かい合ったまま、というのは自分にとってキツく、彼女にとっても申し訳ない。
頃合いをみて、少々理不尽な押し付けではあるが、『それがだめなら、どうか先に入ってください』と彼女を体よくバスルームへ誘導し、
「…分かりました。一緒に入りましょう。」
「………は、い?」
今度はこちらが硬直する番だった。
「…い、…いま、なんと…?」
「一緒に、と!」
タオルを動かす手を止め、ほとんど無意識に彼女をまざまざと見つめる。
「だってやっぱりアグニさんが風邪をひいたらダメです!だから…それなら…」
彼女の素直な思いに、途端に後悔の念が頭を支配する。こんな脅しめいたことをしても、彼女の意思は変わらない。羞恥心を煽り、思いのままにさせようだなんて!情けないにも程がある。でも、それでも、
「っ、!!」
「わ、アグニさんっ?」
今にもシャツのボタンに手をかけそうな彼女の手をぐいと掴み、バスルームへと向かう。
「何を言うんですか!冗談に決まっているでしょう!」
「なっ…!?アグニさんが言い出したんじゃないですか!」
「っ、とにかく、先に入りなさい!」
「え!ちょっ……!」
彼女の最もな指摘にも耳を貸さずに、半ば無理やりに彼女をバスルームへと追いやれば、流石に彼女も諦めてくれたのか、暫く後に、閉めたドアの向こうから、なるべく早く出ますから、との気遣いの声と、体に張り付いた服を脱ぐのに苦戦をする声が聞こえてきた。
へたりとドアを背に座り込み。手のひらで顔を覆う。脳裏にちらつく彼女の姿。水滴が熱を煽るように首筋をなぞった。
「っ、」
どうしたものだろうか。
耐えられる、自信がまるでない。
籠ったままの熱を逃がすように深く息を吐き、オチツケオチツケと、脳にサインを送る。
夏の夕立なんて直ぐにやむだろう。そしたら服を乾かして、彼女を家まで送って行こう。なんてことはない。多少アクシデントがあれども今まで通り。
今まで、通り。
「………でも…、」
帰したくない、なんて。
そんなことを言って、抱き締めたならば、彼女は今度こそ、本当に困ってしまうに違いない。
でも、それでも、
「…………。」
ふらりと立ち上がり、玄関に並んだ2組の濡れた靴にキッチンペーパーを詰め込み、彼女が着れば恐らくワンピースになろう自身のティーシャツを準備しながら、再度溜め息をつく。
貴方の全てが、欲しい、と、そう言ったならば、彼女は。自分は。
「………。」
急に途方もない気持ちになってカーテンを開ける。
外では未だ雨が、降り続いていた。
STEP4>>初めてのお風呂編
時には少し強引に
(そう来るとは、思わなかった!)