連載小説

□Black更正記 ♯3
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第三話



朝。
矢崎は早朝に目覚めた。
ケータイの時計を見れば、太陽がやっと昇り始めた頃といった風で、まだ4時を指している。

昨夜矢崎は御浜の家に半場強引に泊められていた。
どうにも落ち着かず、なかなか寝付けなかったのを覚えている。
このまま寝てるわけにもいかないと、矢崎は重たい身体を起こした。

「 ッ …!!」

まだ至るところに傷の痛みや痺れが残っている。
昨日随分強めの痺れ薬を盛られた上で、散々嬲られた矢崎の傷は、そう簡単に回復する訳もなく、
矢崎はその痛みに暫く伏した。

すると。

《 ゴボッ ゴボッ 》

「…!?」

まるで溺れているような水音に驚いて音の方向を見ると、客間の横でやたらでかい酒瓶を豪快に傾け、飲み下す咲耶の姿があった。

「なんだ、あまり眠れなかったみたいじゃないか。」

『昨日のアイアンクローした怪力美人だ。』
矢崎は真っ先にそう思い出した。
アレはインパクトが有り過ぎた。
忘れようと思っても忘れられない。

そんな矢崎の回想は他所に、咲耶は俄に笑んで続けた。

「しかし小僧、お前随分親孝行なんだなぁ。
『親父、夕飯作ってやるから茶碗叩くな!』

…なかなか笑わせる寝言だったよ… プフッ。」

「…ーッ!?」

饒舌に語った咲耶は隠れて笑っていた。
矢崎は赤面してから布団に包まって出て来なくなてしまった。

余程恥ずかしかったらしい。

その様子を見た咲耶は「おっと、言わん方が良かったか?」と、少々反省する。

「…ぁ そうだ。
あたしこれから酔いざめに何か食いたかったんだ!
夕飯作ってやることも有るんだろ?
あたしにも作ってくれよ! な!」

咲耶としてはこれで忘れてくれればと思っての提案だったのだが、実際酒ばかりで少々空腹であったのは確かだった。

すると矢崎が布団から顔だけ出し、伏せ目がちに小さく言った。

「 ど …どんなの食いたいですか … あんま期待は出来ないんですけど…。」

「おぉ!
そうだなー…
有るもんで作れるんなら何でも構わんぞ!」

こうして、咲耶に朝食を作るべく、矢崎はガシガシと頭を掻きながら、半ば嬉しそうに台所へ向かったのだった。



それから暫く、御浜家に手際のいい包丁の音が響き、いいにおいが立ち込めて、続々と朝食を待つ人数が増えていった。
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