連載小説
□Black更正記 #5
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約数分後、御浜がやっと矢崎の傷から口を離した。
「…はぁ …ッ…」
「…あとは九条くんが養護教諭の先生呼んできたから、大人しく傷、見せるんだぞ。」
そういうと御浜は矢崎のもとを離れていった。
「は… はぁ…
―っそおぉ…」
矢崎は膝を抱えて顔を埋めた。
(すげぇ五月蝿ぇ…俺の心臓)
息を感じるくらい
近くで
必死で
俺を 守って
「 …ばか。」
呟いた矢崎は、膝に顔を埋めたまま朱色に染まっていく。
矢崎の心音は、やけに喧しかった。
- - - - - - - - - -
数日後。
矢崎はぼーっと台所に立っていた。
いや、ただ突っ立っていたのではないのだが。
明確に言うならば、家事をしながらぼーっとしていたのだ。
しかも包丁を持って。
《 ザクッ 》
「 あ゙ 」
案の定指に切り込みが入ってしまった。
徐々に傷口から鮮血が溢れてくる。
すぐに蛇口を捻って水道水で傷口を流す。
血は排水口に波模様を描いて流れていった。
(…この血をアイツが舐めたのか)
漠然とそんなことを考えてから、はたと我に返る。
「ッいやいやいやいや!!
別に何も気にしてねぇしッ!!
あああアイツに首舐められただ…け… 」
舐められた時の感触、息遣い、羞恥などが一気に蘇って矢崎は顔を真っ赤にする。
「ゔ… なっ、なんか…変だ…
俊樹のこと思い出すと、こぉ…なんつーか…」
《 ガチャ 》
「呼んだ?薫ちゃん。」
「うおわあああぁぁッ!!?」
突如現れた御浜に、矢崎は昼間の自宅で絶叫してしまった。
「ちょっとぉ…折角来たのに悲鳴は無いでしょ。
お見舞いだってもってきたのにぃ…」
キィーンとする耳を抑えながら、御浜がビニール袋いっぱいの野菜を差し出す。
「だっておまッ…!
タイミング良すぎるだろ!?」
「? 野菜炒めでも作るとこだったの?」
「そーじゃねぇよ… 〜ッ!!
もういい!!
野菜は貰ってやるから早く帰れ!!」
「えぇッ!?
折角薫ちゃん家来たのに…
って薫、手ッ!!!」
玄関から押し出されそうになった御浜が見つけたのは
さっきの矢崎の傷。
「ッおいどうしたんだよ!
包丁で切ったのか!?
もっとよく見せろ!!」
「!! と、しき…」
傷を見た途端、御浜はまた必死になって矢崎のことを心配し出す。
あぁ 駄目だ
このままじゃ―