翡翠の枕の下
□取り返し
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【取り返し】
あぁ、おれはなんて事をしたんだ。
目の前で、死んだように眠る女性。
俺の大切な幼馴染で、信頼のおける懐刀。
いつも俺のことを考えて、一番に行動してくれる、ジェイド。
俺はコイツを犯した。
いつもどおり、書類を運んできただけなのに。
「……」
眠っているジェイドの頬に触れようと手を伸ばす。しかしあと少しで触れるというところでピオニーはその手をゆっくり下ろした。
俺にはコイツに触れる資格なんて、無い。
目をさましたらジェイドはどうするだろう。自分に罵声を浴びせるだろうか。それともそのまま立ち去っていくのだろうか。
どっちにしろ自分は憎まれるだろう。
「…ジェイド」
俺はただ。
「お前が好き、だったんだ…!」
貼り付けたような笑みも。可愛くない事ばかり言うその口も。雪のように白い肌も、血のように紅いその瞳も。
全部ぜんぶ
大好きだった。
でも自分はこの国の王。
ジェイドは一介の軍人。
許される筈の無い想いだった。
それに彼女は俺をそういう目で見ていないようだったから。あぁ、これは俺の許されない片想いなんだなと自分で理解したんだ。
ずっと我慢しようと思っていた。
でも、今日…
「う…」
ジェイドが声を上げ、ぼんやりとした瞳を少しだけ覗かせる。
こんな状況なのに、その仕草に思わず鼓動が高まる。
(…最低だな、俺…)
「…へい、か?」
「ジェイド…その、すまない。…覚えてるか?さっきお前を無理矢理…」
どうせ嫌われる、今までの関係も終わってしまうのだからとピオニーは素直に謝った。
ジェイドはまだ少し焦点の定まっていない目で項垂れるピオニーを眺める。
「…いいんです。陛下、謝らないでください」
「…お前、何いってんだよ!俺は最低なことをしたんだぞ?!」
蔑む事もせずに柔らかく微笑んだジェイドに思わずピオニーは叫んだ。
何だよ
何だよそれ
何で怒らないんだ
「泣かないでください、陛下」
「泣いてなんか…っ」
ピオニーの頬に、彼自身の涙が伝うのを見てジェイドは悲しそうに、笑った。
「私が…いけなかったんです。恐れ多くも陛下の傍に居座りすぎた、私が…陛下、今回のことは気の迷い、ですよね?」
貴方が私のことを好きだなんて、ありえないんですから
自分を責めるジェイド。
ピオニーはそれを見て、思わず叫んだ。
「好きなんだ!!」
「お前の全部が好きで…っ」
「我慢しようとしたけど出来なかった!!」
「そんぐらい、俺は…」
「もう、いいです…陛下」
「それ以上聞いたら私は…」
「死んで、しまう…っ」
お互いに涙を流しながら、必死に叫ぶ。
そして、どちらからともなく抱きついた。
「…俺、お前にいいたいことがあるんだ」
「陛下…奇遇ですね、私もあるんです」
「ジェイド、お前を…」 「陛下…ピオニー、貴方を…」
あいしてる
ほんとは最初から通じ合えていた
でも、お互いに分からなかっただけなんだ
でも、これからは…
お互いの気持ちを分かっているから、思う存分甘えられる
思う存分、笑いあえる
ずっと、ずっと…
Fin…
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