みじかいゆめ
□消えない願い
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突然のことだった。
誰かにグッと腕を捕まれ足が宙に浮き視界が暗転、背中に走った衝撃と目の前を覆いつくす金色に私は押し倒されたのだと理解した。
「ベル、痛いんだけど」
抗議の声をあげたが反応はない。
いつものように前髪は目元にかかりその表情は見えない。
鼻に血の臭いがかすり、任務帰りだとわかった。
それからお互い微動だにせず無音が流れる。
さっと、両腕を押さえつけていたベルの手が離れた。そして、その手は私の首を捕らえ両手で絞めつけられた。
「っ」
「なまえ」
私の名を呼びながらその手に力を込めるベル。
喉が潰される感覚と共に息がつまる。
意識を手放す前に抵抗し暴れるとベルはゆっくりと手の力を緩め下にいる私へと倒れ込んだ。
「はあっ…はっ…」
私は酸素を求め呼吸を荒くする。
「なまえ…」
泣きそうなベルの声が聞こえたので頭をぽんぽんとなでた。
ごめん、とベルの口から小さく零れた言葉に私はわかってると言い軽く笑うしかなかった。
わかってる、彼は私を殺したいのだ。
でも、本当に殺したいのなら得意のナイフで一思いにやればいいのにベルはそれをしない。
私も私でベルに殺されるならそれでもいいかななんて思っていても、結局死にそうになると死にたくないともがき抗ってしまう。
死にたいけど死ねない私に殺したいけど殺せない彼。
私達は己の矛盾にただただ、泣くことしかできなかった。
消えない願い
2011/4/26