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□【Milky Kiss】
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「……なんでこうなった?」


 燐は自分の置かれている状況が上手く理解できないでした。いや、正しくは理解したくないため考えることを放棄したとも言える。


「ほら奥村くん、あーん」
「燐、早く」


 前門の虎、後門の狼なんてよく言ったもので、前方のアマイモン、後門のメフィスト…逃げ場のないこの状況を後に燐は「サタンと対峙したときだってこんなに冷や汗は出なかった」と語っている。



【Milky Kiss】




 茹だるような暑さの昼下がり。窓を開けても微風一つ吹いてこない部屋に見切りをつけ、学園内のあるメフィストの自室へ燐は避難を試みた。
 部屋に一歩踏み入れた瞬間に体中を包む冷気…汗が一気に引っ込み一瞬遅れで悪寒が身体を震えさせたが、今はそれすら心地よいと感じる程クーラーの人工的な冷たさが嬉しかった。


「ぅあー!生き返る!!」
「おや、奥村くん、どうしたんです?」


 突然の来訪者にも驚くことなく、斬新な柄?の浴衣を着崩したメフィストが出迎える。


「避難だよ避難、あんなとこいたら干からびちまう」


 崩れ落ちるように畳の上に転がり、井草の香りと心地よい冷たさに身を任せる。部屋のフローリングに転がれば冷たいが、汗でぴったりと肌にくっつく感覚が気持ち悪いのに比べれば心地よさは雲泥の差だった。


「確かにあそこはサウナみたいなものですからね」
「だと思うんだったら、クーラーつけろ!」
「奥村先生がちゃんと稼いでるじゃないですか」
「いやいやいや、そんな贅沢品買う余裕とかねーし」


 軽口を叩きながらも、メフィストの視線が燐に向くことはなく視線は大画面に映される映像に向けたままだった。大画面のモニターでは多分格闘ゲームだろう、うさぎのキャラクターが連続コンボを繰り出している。


「スッゲー!俺ゲームってほとんどやったことねぇんだよなぁ」
「ああ、藤本神父はそういったものを買い与えるタイプじゃありませんからね」


 普通に会話をしていてもメフィストの手の動きは世話しなく動き、画面上のキャラクターは決め台詞を叫びながら必殺技を決め、画面にはKOとYOU WINの文字が映し出されていた。


「奥村くんもやってみますか?」
「あーでも最後にやったのスッゲー前だし…」
「負けるのが恐いんですね燐」
「ぐぎゃぁ!」


 突如現れたアマイモンは畳の上に転がっていた燐の上に馬乗りになり、燐は思わず潰れた蛙のような声を出す。


「殺す気かっ!?」
「内臓潰れたってそう簡単には死なないから大丈夫です」
「ギャーッ!!グロいこと言うな!!」


 アマイモンの言いように下手な怪談よりも背筋が凍る。


「つーか、だいたいお前こそゲーム出来んのかよ!?」
「人間界にきてからやり始めました」
「めっちゃ最近じゃねーか!?お前になんか負けねぇし!」


 ギャーっという叫び声とともに燐は勢いよく起き上がった。反動で背中から転がり落ちるアマイモンに人差し指を突きつける。



「勝負だアマイモン!!(どーん)」




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