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□【君を守る】
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 少しだけ陽射しが強くなり始めた初夏。
 真新しかった制服を夏服に着替え、新しい生活は当たり前の日常へと変わろうとしていた。
 
 そんなある日、僕たちは出会った。
 




【ボーダーライン】





 知り合いのいない有名進学校へ入学した雪男は所謂金持ち学校の雰囲気に今だ馴染めずに夏休みをむかえようとしていた。
 口を開けば何かしらの自慢や驕り、一般家庭の出である雪男には縁遠い話ばかりで、入試を主席でパスしたとは言ってもやはり他の生徒達から奇異な目で見られることは少なくなかったのだ。

 その日も放課後を学校内ではなく、駅の近くにある図書館で課題をこなしている時のことだった。


「おい、あれ見ろよ」
「聖十字学園のお坊ちゃんじゃねーか」


 見たこともない柄の悪そうな学生だった。制服から見て、聖十字学園とは駅の反対側にある商業高校の生徒だろう。
 聖十字学園とは違い偏差値が低く、生徒達の喧嘩などで悪い噂が絶えない高校だった。そのため、聖十字学園の生徒は出来るだけこの高校の生徒とは関わらないように日々注意されているのだった。


「やっぱ頭良い学校の生徒は違うね、ちゃんと勉強してるよ」
「あはは、俺達とは出来が違ーんだ」


 図書館ならば不良学校の生徒が来ることはないだろうと高を括っていた分、頭が痛くなる。
 雪男はどうやってこの場を切り抜けるか思い悩んでいると、後ろの席がガタリッと音を立てた。


「うるせぇなぁ!!寝れねーだろっ!!」


 怒鳴り声を上げながら現れた人物は多分、椅子の上に横になっていたのだろう。雪男たちはまったく気が付かず会話していたのだ。


「何だてめぇ…こいつの仲間か?」
「チッ、まぁ聖十字学園のボンボン2人なら結構な額になるんじゃねぇの」
「この人は関係ないだろ!」


 突然現れた少年は私服だったため学生かどうかもわからないが、自分のせいで一緒に渇上げでもされては寝起きが悪いと思った雪男はさすがに声を荒げ二人の前に立ちはだかった。


「は?知らね…グハッ!!」
「え?」


 胸元に掴みかかり今にも殴りかからんばかりだった男は唸り声を上げ、体が後ろに吹っ飛んでいった。
 あまりに突然の出来事に何が起こったか理解が出来ず、雪男の一瞬思考は停止する。自分に掴みかかっていた男はいつの間にか立ち上げっていた後ろの席の少年に蹴り飛ばされたのだ。


「てめぇっ!何のつも…お前、奥村燐!?」


 自分の仲間を突然蹴り飛ばされた男は見知らぬ少年を「奥村燐」と呼びながら心底驚いた顔をしていた。


「ああ?お前らうちのガッコーの奴らじゃねーか」
「お前停学中のはずだろ、何でこんなとこにいんだよ」
「うるせーな、昼寝だ昼寝。とっとと出てけ」


 ふあぁ。と大きな欠伸をしながら燐とは面倒そうに頭をかいている。どうやら彼らと同じ学校の生徒で、彼は少年のことを見知っているようだった。


「…誰だよこいつ」


 ようやく起き上がった方の男は蹴られた腹を擦りながら、ふらふらと立ち上がった。


「先月入学してきた一年だよ!先輩達10人を一人でボコボコにして停学になった!!」
「げっ!あの悪魔かよ」


 雪男から見ても可哀想なほど顔を青くした2人は、2人がかりでも適わないと思ったのか足を縺れさせながらも一瞬で消えてしまった。
 一連の流れを呆気に取られながら傍観してしまっていた雪男は気を取り直し、燐を改めて見つめなおした。
 自分よりも幾分低い身長に、細い腕。これで10人相手に戦ったというのは幾分無理があるようにも思える。


「あ、ありがとう」
「別に、寝てたの邪魔されてウザかっただけだし…お前弱そうだしな」


 ニヤッと笑えば、犬歯がちらりと覗く。それは悪魔というには随分と可愛らしい笑顔だった。


「あはは、正直なところ喧嘩なんてしたことなかったから助かったよ」
「へー、それなのに俺のこと庇おうとしたんだ?お前いい奴だな」

 
 これが雪男と、図書館で惰眠を貪っていた燐が初めて出会った瞬間であった。





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