GOTH -Feat.NISHI-

□GOTH 夏ノ夜ノ夢
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翌朝、

松坂は喫茶店にいた。



通学路にあるその喫茶店の前を通ったとき

ふと窓ガラスに目をやると
テーブルにフレンチトーストとオレンジジュースを並べて
読書をしている彼女が見えたのだ。




偶然に
彼女が顔を上げて俺を見た。




自然に足が喫茶店の茶色いドアへ向かい、
俺は松坂の向かいに座った。

それは、昨日と同じだった。




「おはよう。」

「………。」


軽く手を挙げて応えた。

マスターにブラックコーヒーを注文し、
思い立って松坂の本のカバーを外した。



「………ロシアの殺人鬼シリーズか。」



表紙に書かれていた名前から
俺はすぐにそれが有名作家のものだとわかった。

過去に一度、読んだことがあったからだ。




「図書館から借りたの。」

「学校のか?」

「ええ。」




毎度のことながら、松坂は抑揚の無い声で言った。

このシリーズなら彼女の趣味に合うかと思ったが
様子を見る限りそうではないと察した。



「………その人の次の作品なら、お前も気に入るかもな。箱庭シリーズってやつ。」


運ばれたブラックコーヒーに手をつける。

店内に客はおらず
マスターも奥へ入っていったので
カップをソーサーに置いた音がやけに響いた。




松坂は本を閉じると
フレンチトーストにフォークを突き刺して
口に運んだ。


微妙ではあったが
怪訝そうだった表情が微笑になったように思えた。




「今日の放課後、図書館に付き合って欲しいわ。」

「構わないけど。」



無表情で向かい合って会話を交わす俺達に気付く愚民は

誰一人としておらず


また
教室でいつもの日々が始まると思うと

今 この流れている時間が
もう少し続けばいい、なんて思った。
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