GOTH -Feat.NISHI-

□GOTH リストカット事件
1ページ/4ページ

秋風に吹かれ始めた頃、



寒くなってきた屋上での読書が苦になってきたのか
松坂は理科室に通うようになった。




C組から理科室へは、A組の前を通るのが最短距離だから
休み時間に本を脇に抱えて歩く松坂を俺はよく見かけるようになった。





見かけるだけで、
毎回会話をするわけではないが。








頻度は、二日か三日に一度くらいだろうか。


俺達は校内ではあまり立ち話をしない。




帰り道に人気のない寂れた公園で落ち合うか、
松坂が俺の家に来るか、

そのどちらかで俺達は時間を共有するのが当たり前になっていた。





夏休みは喫茶店でのこともあり、
松坂はよく俺の家に来た。






そのうちに俺達が付き合っている、という噂も立ったが

何しろ俺だし。

松坂は密かに人気がある「高嶺の花」らしいから
誰かと付き合うはずがないみたいなことまで言われている。





……確かに付き合ってはいないが。





でも
愚民どもが松坂の噂をしていると頭に来る。



黒いモノが自分の中で渦巻くのだ。




それが何かはよく分からない。







「……いつにも増して、険しい顔してるわよ。」






放課後、松坂と駅前のスタバに寄っていたところだった。



松坂はココアを飲みながら俺を見て、
彼女もまた険しい顔をした。






「何かあったの?」


「別に……。」


「ならいいんだけど。表情が深刻そうだったから、心配になったわ。」






松坂は相変わらず心配してるのかしてないのか分からない、抑揚の無い口調で言った。


俺はごまかすように、家から持って来た新聞を開き、
ある一枚だけを抜きとって広げた。




「……犯人未だ見つからず、か。」


「犯行が夜に限られているわね。普通に仕事をしてる人間なのかしら。」


「単に見つからない為、ッてのも有り得るけどな…。」





俺達が考察しているのは
夏休み明けから多発している通称「リストカット事件」だ。



老若男女問わず、
さらにはペットの犬や猫までが手首を切られるという奇怪な事件の行く末に
俺達は胸を躍らせていた。




しかも犯人の行動範囲がなかなか広く、
俺達の校区はまたしてもその範囲に入っているのだから面白い。





「松坂、被害者の写真あるか。」


「勿論。あなたにもコピーして来たわ。」


「仕事が早ェ。」





クリアファイルに丁寧に挟まれたそれらをテーブルに広げて、

松坂は数枚を俺に渡した。






「……やっぱ共通点はなさ気だな。」


「手だけが欲しいのね。手が綺麗な人達だったのかしら。」


「単に数が欲しいって可能性もあるか。」






しばらくそれらを眺め、



その日は特に考察が進むこともなく

情報の交換だけで終わった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ