物語置き場

□とのといっしょ〜仁王再臨〜
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この前、なんか散々な目にあってからというもの。
――興が、まともに口を聞いてくれない。




『とのといっしょ 〜仁王再臨〜』




興と話すことはおろか、目線を合わせようとしただけでもぷいっと顔を逸らされる。
…俺何かやったっけ、なんて自問自答してみたけど。


――正直、思い当たるところが多すぎる。


興はどんなに怒っても何だかんだ許してくれていたし、今回みたいに本気で怒ってるのは珍しい。
だからいつもと違うことをしたのかな、なんて思ったのだけれど、変わったことをした覚えもないし。
…どうしよう。どうしたらいいんだろう。
自然、ため息が出る。

そんな状態なものだから、
戦場でも散々な状態だった。

…開幕から高知力の伏兵踏んで、突撃を迎撃しようとしたらビタ止め乱戦されて、挙句の果てにぼーっとしてたら水計に流された。

最初は八卦の先生が物凄い顔でこっちを見てたけど、最後らへんは逆に心配になったみたいで。
何か変なものでも食べたんですか、なんて聞いてくれた。
…何か腑に落ちないけど、先生なりの気遣いだと思っておく。


――部屋への帰り道、今日もとぼとぼ一人で歩いていると。

「何をそう辛気臭い顔をしているんだ、お前は」

急に、声をかけられた。
慌てて顔を上げると、そこには最近良く見かける顔。
というか、さっき演習で俺が踏んづけた知力10伏兵である、その人。

「曹操殿?」
「暗い空気撒き散らしおって、嫌でも私の視界に入るではないか」
「…はぁ、すみません」
相変わらず上から目線だ。
……何でこの人、殿と仲良いんだろ。俺には分かんねぇや。
「何だ悩み事でもあるのか、知力1がいっちょまえにため息なぞついて。道理で戦にも身が入っていない訳だな」
「…俺だって悩みくらいありますよ」
ぽつ、と零した自嘲めいた呟きを聞かれたのか。
「恋、か」
「え!?」
曹操殿のその思いがけない言葉に、俺は思わず声をあげてしまった。
「図星か、お前も若いな」
「う、…そりゃ曹操殿に比べたら経験も浅いでしょうけど」
これでも本気で悩んでるんですよ、なんて。
そう言うと、意外にも曹操殿は真剣な表情で口を開いた。
「人生の先輩として聞くだけ聞いてやろう、話してみろ」
「…あくまで「聞いてやる」姿勢なんですね」
「ふん、この私の指導を仰ごうと言うのだから当然だ、光栄に思え」
「…はぁ」
やっぱり釈然としないけど、悩むよりはマシか。この人曲がりなりにも最高知力だし。
――という訳で、相談してみることにした。

「…ようは、恋人に急に嫌われたと?」
「ええと…多分…そうっスね」
「脳筋のお前の事だ、どうせ嫌がる相手に強引に迫ったりでもしたのだろう」
「うぐ」
その通りなだけに何も言い返せない。
…でも、

「……そうだな、ならひとつ良いことを教えてやろう」
「え?」

興の声が、聞きたい。一緒に居たい。
…そのためなら、なんだってする。
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