短編集

□ナリスマシ
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哀しい慟哭が聞こえた。

悲しませてはいけない。
悲しませたく、ない。

私は思わず彼女を抱き締めた……

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「由美歌」

真弓の呼ぶ声がして、由美歌はママゴトの手をとめた。
遊び相手は少しくたびれた人形だ。ハギレを使って作られたそれは由美歌のお気に入りだった。いつもこの人形にお父さん役をやってもらっている。
「由美歌ー?」
古いがしっかりとした木造の家屋に真弓の呼び声が再度響く。きっと台所からだ。由美歌は人形を携えて立ち上がった。

真弓は由美歌の姿を探して視線を巡らせた。
部屋は総じて畳敷きで屋根は低く玄関は土間で、縁側だってある。このような日本家屋は今となっては珍しい。家の周囲は田圃や畑が広がり閑散としてはいるが、風景はこの上なく美しかった。夫の実家にも近い。
元々この家には、夫の両親の知り合いが住んでいたのだが、手放すというので安く手に入れたのだった。部屋が広く、掃除や手入れは大変だが、なかなか住みよい家なので真弓は気に入っていた。

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