短編集

□赤いサンタクロース
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「……見えない」

途方にくれて聖は呟いた。
街はイルミネーションに溢れ、暖かそうなコートを纏った家族連れや恋人達が幸せそうに集う。
今日はクリスマスイヴ。
しかし聖には関係なかった。宗教観念について異論を唱えたいわけではない。ただ今日も普通の1日なだけだ。連続する24時間1単位。いつもの続き。
そしてクリスマスについてどうこう言っている場合でもなかった。
人込みが苦手なため裏通りから家に帰ろうとしたところ雪に足をとられてすっ転び、その拍子にコンタクトレンズを落としてしまったのだ。
慌てて捜せども、視力のない目で小さいものを捜すというのは無理な話だった。雪が体温で溶けてしまい手袋を冷たく湿らせる。末端から染み渡るような寒さに震えながら、それでも聖はコンタクトを捜し続けた。
家までまだ距離がある。こんな一寸先も見えないような状態で無事に家に帰りつける自信はなかった。

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