四季手紙

□秋の便り
1ページ/9ページ

 
 郵便屋さん……♪
 
*
 
 みんみんじーわと蝉がじっとりと鳴いては暑さに拍車をかける昼下がり、カラリと引き戸を開けて少女が日の下へ現れた。
 艶やかで真っ直ぐな黒髪を高い位置でふたつに結い、それが歩く度にサラサラと跳ねる。サンダルを引っ掛けて遠出をする出で立ちでもなく、しばらくあたりを不思議そうに見渡していたが、ふと思い立ったように背伸びをして郵便受けを覗くと足早に家の中へと戻って行った。
 
「おばあちゃーん!」
 
 とたとたと軽い足音が廊下を叩く。築数十年を数えるこの家は、古くはあるがどっしりとしていて子どもが駆けたくらいではびくともしない。土や木や風の匂いがするりと入ってくるこの家が好きで、夏休みにこうやって泊まりに来られるのを雛子は何日も前から楽しみにしていた。もちろん大好きなおばあちゃんに会えるからというのが一番の楽しみだったのだが。
 
「おばあちゃん!」
 
 迷いもせずに台所へ駆け込むと、丁度お皿を洗い終わったらしいおばあちゃんがエプロンで手を拭いながら迎えてくれた。
 雛子は郵便受けに入っていた封筒を差し出した。
 
「お手紙、ポストに入ってたよ」
 
 何か物音がしたような気がしたので様子を見に行ったのだが、どうやら郵便配達の人が来ただけだったみたいだ。手紙を家まで運ぶのが郵便屋さんなら、それをおばあちゃんの元まで運ぶのは雛子の役目だ。
 
 おばあちゃんは優しくお礼を言って封筒を受け取ると、表書きを見て「まあ」と嬉しそうに微笑んだ。あんまり嬉しそうな顔をするものだから誰からの手紙なのか雛子は気になった。もう漢字もたくさん習っているけれど、封筒の字はふにゃふにゃした絵のようで雛子には読めなかったのだ。
 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ