夢幻透析

□side KAZUHA/act1
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1.

風が生温く湿っている。
わけもなく、憂鬱な気分になる。

「…はあ」

雨上がりの放課後。
歩く毎に制服のスカートが足にまとわりついて、不愉快。
太陽はゆっくりと西へと傾いて…いるんだろう、多分。
雨はやんでいるが晴れてるわけではないのだ。
世界が、薄暗い。

たたんだ傘を持て余しながら、私は自宅へ向かっていた。
道路は水浸しになっている。『水溜まり』なんて可愛い表現の似合わない面積を水が占めていた。
靴が濡れないように、陸地を選びながら歩いて来たが、無理だった。
水は容赦なく靴の中に染み渡り、不快指数は増すばかり。

「…はあ」

十何度目かの溜め息を漏らす。
今年は異常気象だ。
ここ数年毎年言われてることだが、今年は本当にヒドかった。
梅雨でもないのに一ヶ月近く続いた雨。
それも、夕立やスコールのような激しい雨だった。
これによる被害は甚大なもので、河川はことあるごとに氾濫し、道路は冠水し、家は浸水し、土砂崩れなどの二次災害も各地で起こっていた。
この一ヶ月の雨量は、平均年間雨量の半分以上になる…と天気予報士のお兄さんがテレビで言っていた。
学校も緊急の避難所として開放され、しばらく休校となっていたのだが、ここ数日雨足が弱まってきたため、登校の運びとなった。
うちは大した被害もなかったので私はなんとか登校したが、水害をもろに受けた家の子たちは学校に来る余裕はないようで、教室はさびしいものだった。

「…なんなら町中が復興するまで休校にしとけばいいのにさー」

ぶちぶち不平をたらしながら、勢いをつけて目の前の水溜まりを飛び越えた。

水音。

「………はぁ」

着地…失敗。
着水してしまいました、隊長。
…誰だよ隊長って。
自嘲気味に自分自身につっこむ。
空はいまだ暗灰色の雲に覆われて、いつまた降り出してもおかしくない状況だった。
…いっそのことびしょ濡れになった方がスカッとするかもしれない。
靴だけ湿ってるから、気持ち悪いんだわ。

 
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