夢幻透析

□side GIA/act2
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6.

あの日以来、俺は熱を出して寝込んでいた。
あの晩、気温は零下にまで下がり、そんな中で十数時間も気を失っていたわけだから、当然と言えば当然だ。

「ギーア〜〜!!」

飽きもせず、イタズラ仲間達は毎日やってくる。


「うるさい!帰れ!!」


こちらも飽きもせず、連中を追い払うキャスタの声。


熱に浮かされながら、あの日から何度も繰り返されるやり取りに笑いが込み上げる。


「まったく!安静だと言っているのに!」
キャスタがぶつぶつ言いながら戻ってくる。


「…雨が降らないかな。」

「…何?」

「雨。」


キャスタはいぶかしげに俺の顔を見つめた。

「晴れているよ。」

「…うん。でも…。」


「でも、雨音、好きなんだ。」


静かな雨音に、閉鎖されたような空間が好きだった。
その空間でなら、いつまでも考えていることができた。

「ギア、大丈夫か?」

「…大丈夫。多分。」

「…”多分”。」


キャスタは低い声で俺の言葉を繰り返し、部屋を出て行った。



一体、俺は何がしたかったんだろう?


余りにも非現実的で、幻のように見えたあの建物を、何故追い掛けたのだろう…?


…幻であることを確かめるために?
幻ではないと、信じたかったから…?




答えは、きっとどちらも正しい。


現実に打ちのめされたくて、そして非現実に縋りたかった。


あの建物があってもなくても、どちらでもよかった。
ただ、走り出したかった。



そうすれば、何かが変わる気がしていた。




あの日、キャスタの言う「きっかけ」を何より切望していたのは俺なのだ。


両親が死んだ、深く沈んだような無気力な空間から、飛び出したかった。


だから、走ったのだ。
何が欲しかったわけでもない。
何を確かめたかったわけでもない。
走り出すために、走りたかった。
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