夢幻透析
□side KAZUHA/act2
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6.
「ハーヴェ‥‥?」
一葉はクローゼットの鏡に向かって首を傾げた。鏡に映っているのは自分の顔ではない。
『そう、もしかしたらこっちの世界でそっちの‥‥カズハの世界のこと知ってるかもしれない人なんだ』
少々息巻いて言うその影は少年で、人間に酷似した容貌であるものの、およそ人間と呼べる種族ではなかった。
鏡を通して会話するという、普通ならば考えられない状況なのだが、一葉は悠然としていた。今日の一連の超体験で、不思議な出来事に対してかなり強力な耐性ができつつあるようだった。
『明日は、まだキャスタがうるさいだろうから無理だけど、ちょっとそのばあさんに話を聞きに行こうと思ってる』
さりげなく出てきたキャスタとは一体誰の名前なのだろうとふと思ったが、先刻の会話を中断するに至った声の存在を思い出した。
きっとその人のことなのだろう。
家族、なのだろうか。
「‥‥具合、悪いんだって?」
そう言うと少年――ギアは目を軽く見開いた。
キャスタという人が彼を労わる言葉をかけていたことを一葉は覚えていたのだ。
「安静にね、無理しない程度に頑張って」
『あ、ああ‥‥』
「こっちは何も手掛かりないけど、何かあったら気に留めとくから」
『あ、カズハ!』
ギアの体調を慮って、そして自分が眠いのもあって、話を終わらせようとしたところでギアが真剣な顔で尋ねた。
『カズハってもしかして‥‥卵産める?』
そう言った次の瞬間、ギアが見たのは凄絶という表現がぴったりなカズハの笑顔だった。
「産・め・る・か――!!」
という叫びと共に手元の鏡の欠片は暗転し、沈黙してしまった。
ハーヴェばあさんとカズハが同じ種族であるという可能性を疑っての質問だったのだが、その可能性は万が一にもなくなったということだ。ちょっと安心した。