四季手紙
□秋の便り
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「ああ、もうすぐ夏も終わるのねえ」
「え、どうしてわかるの?」
そう訊くと、おばあちゃんは懐かしそうに手紙に視線を落とした。
「これはね、季節の便りなのよ」
「きせつ……?」
どうしてそれがおばあちゃんに届くんだろう。小首を傾げた雛子におばあちゃんは笑いかけた。
「そう、雛ちゃんには話していなかったわねぇ」
おばあちゃんは雛子に椅子を勧めて、自分もテーブルについた。手紙はまだ開けられないまま。
「あれは、おばあちゃんがまだ学生だった頃――」
*
もう何年も何十年も前のこと。
今ではもう着る機会のないセーラー服を纏い、白く短く切りそろえている髪もまだ黒々と両の耳元でおさげとなって揺れていた頃のこと。
金木犀の香が漂い、木々の葉が日々夕陽に染められていく季節の終わり。いつものように学校から自宅へと帰る途中で、若かりしすみれは1枚の手紙を拾った。
「……郵便屋さんの落としものかしら」
塀を越え道へと張り出した家木の落葉に半ば埋もれていた手紙をつまみ上げる。この付近に配達されるものならば、届け先は知っている家かもしれない。もしそうならば持って行ってあげよう――そう思ったのだが、宛名は流暢というよりは文字になり損なった記号のようで、すみれには全く判読ができなかった。
(……ポストを見かけたら投函しておこう)
消印も押してあるし、本当に配達の途中だったのだろう。誰宛てかわからない以上、すみれがヘタに何かするより本職の郵便屋さんに任せた方がいいに決まっている。
そんなことを歩きながら考えていたが、ひとつ角を曲がるとその両方を止めざるをえなくなった。
すみれの行く道の真ん中にもう1枚、ぽつんと手紙が落ちていた。