企画跡地

□Run after the white rabbit.


*

 スミレは桜の木の下でのんびりと読書をしていました。
 空気は冷たいのですが、日差しがぽかぽかと心地よく、上着一枚だけでも風邪をひくということはなさそうです。小春日和とはこういう日を言うのかなと少し遠い太陽に目をやって思います。

 と、そこへ

「わーいそがなきゃー」

「……郵便屋さん?」

 慌てた様子の郵便屋さんが駆けてきました。
 スミレはふと違和感を感じて考え込みました。数瞬おいて弾かれたように顔を上げます。

 郵便屋さんは人ならざる者です。トレードマークかチャームポイントかわかりませんが、キツネのような獣耳と尻尾がくっついています。

 その耳と尻尾がウサギのそれになっていたのです。

「ゆ、郵便屋さん!?」

「あ、スミレだ! ごめんね、今は忙しいの」

「え、ねぇ、まさか忙しいからそうなってるわけじゃないんだよね?」

 郵便屋さんが足を止めてくれなかったので、スミレは思わず追いかけようとしました。しかし

「!?」

 なんとご都合主義に足元に大きな穴が開いていたのです。スミレは勢い余ってその穴の中へと落っこちてしまいました。

「なんで――!?」

 深い深い底に向かって落ちていくスミレは次第に意識を闇へと溶かしていきます。その最後のひと欠片が溶ける刹那、似たような話を知っている気がしました。しかし記憶を探しあてる前に意識はスミレの手を離れ、深い闇に紛れてしまったのです。


*

 桜の木の下にはページを風に遊ばれる本が一冊。タイトルは「Alice's adventure in Wonderland」――不思議の国のアリスの冒険。


※ところによりややグロテスクな表現が入ります。苦手な方はご注意ください。
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