過去の遺物

□序章(微修正版)
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『人は忘れる動物である』
 これは、誰の言葉だっただろうか。

 人は大きな過ちを犯してもいつかは忘れ、再び同じ過ちを繰り返してきた。その「過ち」の最たるものは、おそらく戦争だろう。人は過去に幾度となく争いを繰り返し、互いを滅ぼしあってきた。そして、時の流れが人々から罪の意識を忘却の彼方へと押しやる。

 科学の発達した時代になってもそれは変わらず、むしろ激しさを増していく。人の歴史は「争いの歴史」という負の連鎖へ完全に取り込まれてしまったのだ。

 ある時、止まらぬ争いを見かねた大国の王ナザール・ランヴァルトは、各地から優れた技術者を募り、新兵器を造りあげた。

「これが人類最後の戦争となることを、我は切に望む」

 このナザールの言葉をもって、後に『統一戦争』と呼ばれる戦いの火蓋が切られた。彼は新兵器を用いた軍隊を組織し、争いを続ける各勢力の主要拠点へ進撃した。各勢力の頭を叩き、早期決着へ持ち込むことが目的だったからだ。

 ナザールの使用した新兵器は、従来の兵器を遥かにしのぐ性能だった。二十五メートルという大きさゆえに小回りは効かないが、当時の最新式戦車の砲弾を耐えきる頑強な装甲と、装甲車を跡形もなく吹き飛ばせるほど強力な火器を備えており、そして何よりも特徴的なのは、当時各国が実用化を急いでいた「二足歩行できる人型に近い兵器」の姿だった。

 この駆動兵器の軍隊を前に各勢力は為す術もなく敗れ去り、戦いは僅か一ヶ月でランヴァルト軍の完全勝利という形に終わった。皆、例の兵器を恐れ、戦いを続けようとする者は誰一人いない。ナザールは、駆動兵器の圧倒的な力で人々の戦意を喪失させたのだ。

 争う国々を降伏させ、世界を統一したナザールは、その後各国の首脳を集めて宣言した。

「これより暦を『帝暦』に改め、統一国家『ユニオン・グロウブ』の樹立を宣言する」
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