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□死に場所は…
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「雪の降る寒い、誰も知らないような、そんな寂しい場所で生き絶えたい。」


お前の口癖はいつも決まってこうだった。
いつからだろうか。そんな寂しい事を言うようになったのは。ある時何故そう思うのか聞くと、あんな寂しい台詞を吐いた人間とは思えない言葉も返ってきた。


「ほら、冬生まれだから雪好きだし!」

「…いや、関係ねぇだろ」

「んー…なんかさ。私はひっそりとして、気付いたら死んでましたー。が、お似合いだと思うんだよね」


俺はそれ以上訊く事が出来なかった。
何故出来ないかと問われても未だに答えられないだろう。自分でもわからないから。

それ以来、冬が近づくとお前が消えてしまうのではないかと心配になる。
お前は気付いていねえかも知れねぇが、俺はお前が好きだ。
暑いのは苦手と言うあいつはやはり冬生まれだからかとも思ったが、あいつの笑顔は冬にはあり得ない向日葵の様な輝かしさを持っているのだから実は暖かい場所が向いている、いや、行くべきだと思う。
寒くて静かな場所など似合わない。
俺はあいつの側に居られるだけで幸せだ。

あいつの為ならば何にでもなろう。
一生大事にしていきたい。
そう、ずっと思って生きてきたんだ。



なのに、



何故お前は今倒れている?
お前の死に場所は雪山じゃねぇのかよ?
どうして。
何があったのかわからない。
目の前で起きていることを頭が理解しきれていない。脳が思考に追い付かない。いや、思考が脳に追い付かないのか。もう、そんなことはどうでもいい。自分でも何を考えているのかわからない。
目の前に広がるのは真っ赤な海。
それを確認した途端、口から出るのは言葉とも取れない台詞。そして、悲鳴からの嗚咽。
死んだ?あいつがしんだ?
お前…雪山で死にたいんだろ?
絶対に雪国には連れていかないつもりだったんだ。それだけで安心出来たんだ。
なのに、何故…こんな、こんな…


あいつは死んだ。突然突っ込んできたトラックによって。ほんの一瞬の差のせいであいつだけが犠牲になった。生き絶える瞬間、あいつは笑ってこう言った。


「…静かに消えていく季節すら選べないんだね……」


あぁ…そういえば、お前は雪山だけじゃなく冬が良かったんだったな…
どこか頭の片隅でそんなことを理解した。


……そうだ。お前の墓は静かな、雪山の田舎の、人のいないところに建てよう。
そこに場違いな向日葵を添えて。
お前が生きていた証だ。
本当にお前の笑顔が、お前の話す言葉一つ一つが、表情一つ一つが、行動が、思い出が。大好きだったんだ。だからお前がいない世界なんて考えられないんだぜ?
どうしたらいいんだよ…なぁ。


「…俺様も、お前が望んだ場所で…」


なんて、以前言ったら景吾に影は似合わないよと言われた気がする。また言ったら今度は怒るだろうか?悪いな。俺はお前の望みを受け継ぎたいんだ。怒るなよ。
俺様も死ぬ時が来たら雪山だ。
そうだよな…?





数日後、とある雪山で小さな墓と何故か添えられた向日葵の花が見つかった。それは朝露によって輝いていた。
































一人の青年と共に………



2012.05.18.end

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