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□不完全燃焼
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「6‐2!ゲームセット!」

「…っ……嘘でしょ?」

「…あのさ…麗奈」


今日は女子テニスの大会……だった。だけど今までにない最悪な試合の結果となった。
過去形なのは今まさに試合が終わってしまって帰る最中だから。
もちろん帰宅中の一同の空気は重かった。
何より私は試合終了直後にパートナーの子に今日は最悪だったねって怒られた。
知らないよ!第一私達、お互いにシングルスプレイヤーじゃない!!
数ヶ月前に、部長からしばらくシングルスの大会がないからダブルスをやってみない?と言われたからやってるだけで…!


「……私、ダブルス嫌いだから。」

「…知ってるよ…?」

「…じゃあ何で私を責めてるの!?」

「そ…そう言う訳じゃ…」


シングルスが強くないとダブルスが出来ないだなんてわかってる!でも私はそのシングルスでも精一杯やっていい成績を取ってるんだよ!?もうこれは相性とかも関係してくるんだろうけど私にはダブルスが向いてないんだよ!!わかってよ…


結局、和解出来ないまま私は家に帰った。でも…どうしてもテニスはやりたくて…当然だよね。あんな中途半端な試合だけで…楽しい訳がない。今日の試合を楽しみにしていたのに…


「……そうだ…ストテニ…」


今の時間なら誰かいるかも…近くのストリートテニスなら…
帰って来てそのままだったラケバを持ち出し家を飛び出す。
ウォーミングアップついでに目的の場所までは走って行くことにした。


「……う…わ」


あり得ない。こういう時に限っているのは小学生と腕に自信だけはもっていそうな中年や社会人。どうしよう…失敗した…
私の知っているストリートはここだけ。ここのテニスコートに着くまでには階段を上がらないといけなくて、これを上がりきった私は既に先にいた人に発見される訳で…


「お姉さんテニスやるのー?」

「……えっ……あの」

「わたしね!つよくなりたいの!どうしたらいいかなぁ?」

「……えと…練習あるのみ…かな」

「いっぱいやるの?」

「そうだよーあとは努力を惜しまない」

「…おしまない?」

「えっと…努力することだけを考えるの」

「ずっとがんばるー?」

「そうそう」


驚いた。こんな小さな子までやっているとは…しかも女の子。強く…なるといいなー
まてまて…人の事より自分の事……
とりあえず誰かいないかと女の子の元を離れ周りを眺める。ふと先ほどの女の子を見てみると、そこへ男の子が近づく。お友達?最初の方は聞き取れなかったけど途中で、女なんて強くなれるわけねぇじゃん!とかなんとか聞こえた。……アレか…きっと言い争いになるんだろうな…よくあるよねそうやって喧嘩になって…女の子泣いちゃうかな?いや…強そうな子だったし…
まぁ…なんでもいいや。とりあえずそれなりな試合を出来そうな人はいないかなぁ…


「あぁ?んだよ!文句あんのか?あ゛?」


と、思った矢先、丁度良さそうなカモが…おっと失礼。対戦相手が。
ここのテニスコートは基本的に平和なはずなのに今日は荒れていた。まるで私の気持ちを表すように……


「つーか全然強いのいねぇじゃん!ってかタメがいねぇのな!周りの学校強ぇのにストテニはクソだな。」


吐き捨てる様に言ったそいつは先ほどまで相手だってあろう社会人を睨み付ける。話の流れ的にこの辺の卒業生とでも言ったのだろうか、期待して損したとも言い出した。どうやらここで一番有名な氷帝学園出身らしい。氷帝……か。
実を言うところ、今日試合で負けた相手校は氷帝学園で、私はそれなりにシングルスでは名が通っていたので負けた瞬間、『期待はずれ』と笑いながら言われたのは屈辱的だったし私のプライドを逆撫でした。次は潰してやる!と思っていたのに相方にはもう止めようと言われるし……何より、氷帝には負けたくない理由があった。


「ねぇ…」

「んだよ!?…なんだ女か」

「じゃあさ。私にテニス、教えてよ」

「はぁ?」


うわ。めっちゃガン飛ばされてる!睨まなくてもいいじゃんー
男はまるで品定めするかの様に私を見てから一言、いいぜ。と言った。


………勝負は、私の圧勝。
もちろん6‐0。


「…っはぁ…はっ…な…んなんだよ…」

「……そんなレベルじゃここの人達に文句を言う資格なんてないね」

「っくそ!」

「おねぇさんつよいー!」

「…え…あ、ありがとう」


私に駆け寄ってきたのは先ほどの女の子。
なんかめちゃくちゃ嬉しそうだな…私は教えたりなんか出来ないからね?指導は向いてないんだよ。ダブルス並みに。


「っ…おい!テニス以外の事を教えてやるよっ!!」


先ほどの男がそう言いながら私に駆け寄り、腕を掴み私のウェアのボタンに手をかけた。え、ちょ、ここ外!!え、まさかの公衆の面前で!?って違う違う!逃げろよ私!
あまりの突然の事態に固まる私。ちなみに先ほどの女の子はただならぬ空気に怖くなったのかまたいなくなりました。いやいやいや助けを呼んでくれよ。ナニコレ自業自得とか言われちゃう訳!?理不尽!


「おい、その汚い手を今すぐ退けろ」

「あぁ!?んだよ!」

「…っあ……」


軽々と男の手を私から引き剥がしてくれた救世主は最近このストリートテニスで知り合った人物だった。ちなみに彼は男の手を捻り上げていました。うわ痛そう。


「さっさとお家に帰んな!」

「っくそ…」


それから私は彼にお礼を言うと、何故かデコピンを食らった。痛い!何故!?


「……ったく…無茶してんじゃねぇよ」

「……見てたんですか…」

「まぁな。だが、なかなか良かったぜ?」

「……はぁ…どうも」


それよりも、と続ける彼。今日は大会じゃなかったのかと聞かれて言葉に詰まる。今に至るまでの経緯を簡単に説明すると彼は呆れたたらしく、ため息を吐いてから馬鹿だな。と言った。失礼な!!


「…ば…ばかだなんて酷くないですか!?仕方ないじゃないですか!私、ダブルス嫌いなんです!」

「……良いもんだぜ?ダブルスも」

「…それを感じることは一生無いです」

「俺もシングルスだったがU-17でダブルスをやったんだ。」

「……U-17!?…流石ですね」


そう言えば彼は当たり前だろと自信満々に言ってくれた。ちなみに中学の頃の話だがな。え……流石ですね。つまりはそれほど優れていると言うことで……
その場所で、ダブルスの最高の技、同調を使ったと語ってくれた。うへぇ…私には一生無縁だ……第一これからはまたシングルスだし。
彼は良いだろうね。私は別。彼はテニスが物凄く強いから。彼は名門校の一つ、氷帝学園のテニス部で、全国大会まで行くような学校…憧れてるからこそ彼が通う氷帝の人間には負けたくなかったのに……
強いからダブルス出来るんですよ!と皮肉を込めて言えば、それは違うだろと否定され、お前だってなかなか強いだろ?と言われた。そんなん自分じゃわかんないよ…




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