BASARA

□ぶれている男
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私の作った夕飯をさも当たり前のように食す人物。
父の弱味を握りあっという間に我が家を侵略し、両親を出ていかせ私と二人きりで暮らす暴挙を成し遂げた化け物。
人を面白いか面白くないかで判断をする、性根の腐った人。
それがこの、


「卿が何を考えているかは詮索しないが…余り良い気はせんな…」
「すみません、ただ久秀様のお口に合わなかったかと思案してました」


男、松永久秀は私のシラを切った態度に不適に口元を歪ませて箸を置く。
見ればほぼ完食しており、何処かホッとする自分がいた。


「卿の作る料理を蔑んだりはしない、卿は私の愛しき者だからな…」
「…信憑性に足りません」
「卿の両親を地方へ追いやり、更に家に我が物顔で居座る私に対し立腹するか?出来る立場、か?」


絶対零度の視線。
怯える私に実に楽しそうに笑う彼はとことん悪なのだと思った。

けど、
何故か憎しみを感じない。
理由は、解る。
この男は私に対しての愛情を隠さない。
だから余計に刺さる。
冷たい優しさが、刺さる。


「…無言は何にも勝る肯定になるのだよ」
「……いきなり好きだとか愛してるなんて言われても」


いきなり押し掛け力押しで私の生活の全てを鎮圧した人間に、毎日言われる恐喝に近い愛の言葉。
重い、重いよ、そんな愛。

私は何も言わず食事の終わった彼の食器を手にキッチンへと逃げた。
あの空間にいたらいつか私はあの人に。


「好いてはいけないのか?この私を」
「っ…、私の全てを奪い取っておいて何を」
「奪い取り、その分与えてやる…但し私から離れる事は許さない…」


じわり、と広がる言葉に振り返る。
影が差し威圧する空気を出す彼に私は固定された。
物理的にではなく精神的に、目が逸らせず体の力が抜けていくように。

優雅に伸びた手が私の頬を一撫ですると実に愉快と言って背を向けキッチンから消えていった。

何も、されなかった。
あの空気で何もしていかない処が余裕ぶってて嫌だ。


「…あぁ、言い忘れていた」
「…何ですか」
「今日から寝室は私と共有しなさい、ベッドも同じ物を使う。異議は聞かない、歯向かえば…解るだろう?」


最悪だ。
この男は人として、生き物としてぶれている。



ぶれている男

(「卿が器用なのは手先だけだな」)



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