BASARA

□氷点下のお迎え
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庭は真っ白く染まり、吐く息もまた白い。
夕べから降り続いた雪はあっという間に積もっていた。
着物の上に羽織りをし、裸足の冷たさを感じつつ廊下を歩く。

子供では無いけれど雪は好き。
サクサクとした感触、色合い、空気感、冷たさ。
昔はこの中を駆け回っていたけれど、今それをすれば確実に風邪を引く。

ので、縁側で暫し銀世界の中庭を眺める事にした。

いつもは五月蝿い三好三兄弟も今日は静か。
目の前に広がる真っ白で手付かずなそこに、ついうずうずと胸が高なる。

飛び込みたい。
こんだけ綺麗ならきっとくっきり人型が出来る。

そう思った時にはもう私は背中から雪に飛び込んでいた。

ボスッと音を立てて雪に埋まる。
冷たい、けど落ち着く。
空を仰ぎ見ればまだどんよりと暗い。
もしかしたらまた降ってくるのかも。
雪が降ったら、私埋まっちゃう。

なんて事を考えた時。
盛大な溜息が廊下から聞こえてきた。


「……卿は凍死したいのかね」
「…!ひ、久秀様…!?」
「全く…隣で寝ていた卿を探しに出れば…そんなに昨夜の情事が退屈だったか?」


縁側から私を呆れたように見下ろす久秀様。
着流しに羽織りだけと、寝室から出たままのような姿に探させてしまった事にすぐに気が付いた。
体を起こし、慌てて駆け寄り首を左右に振る。


「そんな…!退屈等では…とても、満たされました」
「……っ」
「…?久秀様…?」
「…いや、卿には勝てないな」
「?」


狼狽えた久秀様を見るのは初めて。
誤魔化すように私の頭や羽織りに付いた雪を丁寧に払い、少し濡れてしまった髪に久秀様の指が滑る。

その仕草が昨夜の熱を思い起こすようで。
生理的に頬に熱が集まり始めた。

その私を見るや否や不敵に笑った久秀様が間近に顔を寄せる。
刺さるような眼差しに温かい久秀様の体温。
今の私は頬以外は雪と同じ温度。
それを眼差しで溶かしていくようで。


「何を、思い返したか…是非卿の口から紡いで貰いたいな…」
「そ…れは…」
「羞恥をするような事か?朝から…いやらしいな」
「ッ!ひ、久秀様!」
「はははっ」


快活に笑う久秀様にむくれる。
狡い、この人は人の恥ずかしいと思う事をすぐに探り当ててつついて。

でも、そんな人と居て、幸せを感じてしまう私も私。

一通り笑った久秀様は私に自分の羽織っていた羽織りを掛けて下さりそのまま肩を抱いて歩を進める。
進行方向、寝室。
危険度、高。


「あ、あの久秀様、私着物が濡れてしまったので自室で着替えて」
「…卿の着物を脱がすのは私が一番長けている、違うかな?」
「へ、あ、えっと…」

「どうせ脱がすのだ、着替えようが濡れていようが変わりない」



やっぱりそうなるんですね。

嬉しそうな久秀様を止められる人等、この世にはいない。




氷点下のお迎え

(帰る先はまだ温もり残る布団の中)

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