BASARA

□幸せだった昨日 前編
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罵声。

学校からの帰り道。
知らない男の人達に囲まれて人気の無い路地裏に連れられた。
普段ならついて行かない、だけど。


「松永久秀はお前のせいで堕落した」


なんて言われてしまえば私に抵抗力は無い。

話を客観的に整理するとこうだ。
久秀さんの恋人と名乗る人の命令で私を此処に連れてきた。
恋人は私の存在を知り、妬み、殺してやりたいらしい。
女性の恨みは怖い。
出来れば買いたくないけれど、私には生活が掛かっている。
あの人がいなくなったら、私は路頭に迷うしかない。
あの人に侵食された生活に馴染み過ぎた私が愚かなのか。
あの人に他に抱えてる女がいないと思っていた私が愚かなのか。

何にしろ私は愚かだ。

男達は言うだけ言うと私の頬を握り拳で張り飛ばす。
鈍い感覚が脳を走り、揺れて、床に倒れる。
痛い、すっごく。
腫れるよね、絶対。
無いわ。

倒れ込んだ私の足を誰かが押さえる。
何をするかと思った刹那、男が銀色に光る長く屈強そうな金属バットを振りかざしていた。



あれから何時間経ったか。
辺りは暗い。
両足は再起不能、動く動かない以前に下半身の感覚が無い。
片腕は無事だけど、もう片っぽは応答が無い。
呼吸をする度虚しく器官がヒュー…ヒュー…と音を立てる。
口からは唾液より血液の方が量が勝っている。

でも、良かった。
犯されはしなかった。
きっと処女も奪われぬまま死んでしまえと言いたいのだろう。
私は知らない奴なんか犯されたくは無い。

もう人の気配は無い。
そろそろ動いても大丈夫。
体が悲鳴を上げる。
今の今まで感覚の無かった下半身からの激痛。
良かった、神経は死んでないみたい。
片腕だけで這いずり、なんとか自分の鞄まで向かう。

携帯、携帯さえ。

そう思ったけど、やっぱり鞄の中身はぐちゃぐちゃで。
携帯は無惨に踏み潰され、中身の基盤が出てしまっていた。
あー、私はこんな風にならなくて良かった。

酷く脱力すると今度は嘔吐感が襲う。
何発か、数えるのも馬鹿馬鹿しくなる程に蹴られ、踏まれ、殴られて多分内臓がギブアップしている。

案の定、吐き出されたのは胃液じゃなくて真っ赤な液体で。
苦しくて咳き込むと身体中が絶叫する。

今度こそ思った。


私、死んじゃう。





車を走らせる。
携帯に応答が無い。
かれこれ三時間だ。
代わりに違う女からの連絡が絶え間無い。

以前会食の席にいた香水臭い女の番号だ。
取引先の人間だった為に連絡先は聞いたが利用はしていない。
そもそも好みではない、寧ろ嫌悪する人種だ。
あの女の会社は今色々内部分裂が起き、いつ傾くや解らん情勢。
きっと私にすがり融資して貰おうという魂胆が見え見えだ。


そこで車を止めた。
合ってはいけない辻褄が、ピタリとはまった。





幸せだった昨日 前編

(冷たくなっていく体で、ただただ震えて待つ、貴方を)

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