MFB ss

□MFB13
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キズとアト。






「あ?てめぇがつけたんだろうよ、アノ最中にな」

赤くミミズ張りのようになった、キョウヤの背中の傷。
それに気づいたのは、キョウヤがシャワーブースから出てきた時。
上半身裸のまま、首にタオルを巻いて片手に冷蔵庫から出したミネラルウォーター。
いつもの恰好で銀河のいるソファへと来る際、ふと何か思い出して奥へと戻ろうと身体を反転させた時だった。
銀河がその背中を見てしまったのは。

「   −ッ!」

そのキョウヤの言い様に銀河は頬というより顔全体を真っ赤に上気させて言葉に詰まってしまった。

「いつもこうだぜ   って、見たのは初めてか?」

キョウヤはソファに座って自身の背中を指差し、口を開いたままの銀河に言葉を投げかける。
背中を向けたまま、顔だけを銀河のいるほうに向けて。

「いつもって う、わわッ   その、ごめんッ」

銀河は慌てて座っていたソファから立ち上がって、キョウヤに頭を下げる。

「は?何で謝んだよ」

突然の銀河の行動にキョウヤは訝しがるように片眼を吊り上げた。
そして何故か己の脇を走ってすり抜けようとした銀河の身体をキョウヤは俊敏な動作で捕まえた。

「は、離せよッ、塗り薬取ってくるんだからッ」

銀河の向かおうとした奥、事務所に救急箱があったことをキョウヤは思い出した。
どうやらこのキズを見て、薬を塗ってくれようとしていたらしい。

「  ああ、いらねぇよ」

キョウヤの二の腕から逃げようと暴れる銀河を、いとも簡単に押さえ込む。

「いらない って、 オレがつけちゃったんだしそれに」
シャワー浴びると滲みるだろ、それッ

銀河の声が少し荒げられる。
自分が傷つけた、という事に少なからずも動揺しているのが判る。
確かに見た目は酷く見えるのだろう。
幾筋も走る赤い線は所々深い傷跡になっている場所もある。
滲みないと言ったらそれは嘘になる。
キョウヤはまだ薬を取りに行こうとして暴れる銀河の赤い髪を、ゆっくりと梳いてやった。

「イチイチ気にしてねぇよ、  なぁ落ち着け」

シャワーを浴びて、裸のままの上半身にキョウヤの腕によって抱き込まれた銀河。
いつも使っている固形石鹸の仄かな香りが銀河の鼻腔を擽る。
それに、脈打つ規則的な心臓の鼓動が伝わってきた。
先程からずっと髪を梳いてくれているキョウヤの優しい手の動き。
そこで漸く暴れるのをやめた銀河は、小さく息を吐いた。
大人しくなったのを見計らい、キョウヤはポン、と銀河の背を叩いた。

「放っておけば治るモンに薬はいらねぇ」

「…そーゆーモンなの、か?」

立ったまま、キョウヤに身体を預けていた銀河が少し顔を上げて下からキョウヤを見上げた。

「それにな、このキズはこのままのほうがオレはいいんだぜ」

キョウヤの手が銀河の柔らかい髪から離れた。

「嬉しいんだよ   必死になって縋りついて、オレの背中や腕を掻きむしるお前が」
 …それは全部、オレを感じてくれてる証拠だろ?

キョウヤの表情が、雰囲気が、いつもと違うことに銀河は眼を瞠った。
見上げた先、己の両瞳に映るキョウヤの顔。
それは、頬を幾分赤く染めて、照れ笑いのような表情をしていたから。
銀河は言葉なく、そのまま見つめてしまう。

「キョウ、ヤ  」

少し掠れた声で名を呼ばれたキョウヤは、銀河の身体を抱きしめた。

「オトコの勲章ってのか?好きな相手につけられるキズってのはよ」

身体が密着したことでキョウヤの顔は見ることが出来ない。
でも、裸のままのキョウヤの胸から直接響く鼓動は幾分早く感じて。
ああ、きっと照れ隠しに顔を見れないようにしたんだなと、銀河には判ってしまった。
たったそれだけのことなのに銀河は自分の頬がまた熱くなってしまうことを自覚した。
それは嬉しいという感情。
あんなカオのキョウヤを見れるなんて、今までなかったのだから。
その頬を胸に擦り付けるように、キョウヤから見れば甘えるような仕草を銀河はした。

「じゃあさ、オレには付けてくんないのか?」
キョウヤにキズを付けられるのがオレだけなら、オレにキズを付けるのはお前だろ?

そんな銀河の台詞を聞いたキョウヤは、少しだけ抱きしめる腕の力を弱めた。

「…お前にキズはねぇが、オレが付けたアトが残ってるからな」

「  ?アトって」

キョウヤは指先でタンクトップから見えるちょうど鎖骨の下辺りに残る、赤い鬱血の痕を突付いた。

「それになぁ   …見えないトコにも残ってるんだぜ」

さっきまでの、あの表情とは程遠い今のこのカオ。
その表情は銀河から窺い知ることは出来なかったけれど。
きっと見る事が出来たら『悪巧みしてるカオ』とでも言われただろう。

「ッ!」

キョウヤの手が銀河の臀部を薄手のハーフパンツ越しに撫でまわした。

「その場所は、…あとで教えてやるよ」

キズのことは納得した銀河だったが。
アトのことは何だか平等じゃない、そう思いながらキョウヤを睨んだ。

「も、早く服着ろよッ!風邪引いても知らないぜ」
そのキズも見えないようにしてくれッ






2011/8/20

久しぶりのss更新となりました。
でも短めですみません…。
初心な銀河が書きたかったのに。
おかしいーなー?

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