記念ss

□4999hitニアピン
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あれは、誰だ。
オレは知らない。
あんな風に笑う、彼を。



遠目でも、キョウヤの姿はオレの目を引く。
オレが目にしたのは間違いなく彼であって。
その隣を歩くキョウヤより少し高めの身長。
ここからだと相手の顔はさすがに見えない。
後姿しかわからないが、長い髪を高い位置で縛り上げ歩くたびに揺れるのがわかる。

「誰   ?」

服装はごくカジュアルなものだったがスタイルがいいのが判る。
ちらりと見えた、キョウヤの横顔に笑みが浮かんでいたことも。
動く口から何か会話をしていることも。

「    キョウヤ  」

歩く二人は、そのまま群集に紛れオレの視界から消えていったのに。
瞬きすら出来ないオレは、その場に立ち竦むことしか出来なかった。






裏口の扉が開いた気配がする。
ここを根城にしているキョウヤが帰ってきたのが判った。

「銀河、  オイ」

ソファベッドに寝ているオレを見つけて、帰ってきたばかりのキョウヤが声をかけてきた。
でも、オレは返事をすることが出来ずにいた。
昼間のことがまだ信じられずにいたのだから。
ここに来て、やはりキョウヤがいなかったことにまたショックを受けて。
何もせず、今までずっとソファベッドに横になっていただけで寝てはいなかった。
目撃してしまった相手のことが脳裏に焼きついて離れなくて、ただじっと身体を丸めて目を瞑っていたのだ。
返事がないことを訝しげに思ったのか、キョウヤがソファ越しに身体を預けてオレの様子を伺ってるのが判った。

「昼間、お前と一緒にいたのは… 誰なんだよ」

こっちを上から覗いているキョウヤに、オレは聞きたいことを声に出す。
でもそれは、自分でもわかるくらいに小さな声だった。
キョウヤは聞き取れなかったのか、「何だ?」と寝たままのオレに聞きなおしてきた。
オレはソファに両手をついて上半身を起こす。
なるべく声が震えないように、勇気を振り絞ってもう一度言葉を出した。

「昼間?    あ、アイツか」

「   アイツって」
そんな風に呼ぶなんて…オレは少なからず動揺した。

「誰って  ああ、ちゃんと見たワケじゃねぇのかよ」

「何だよ  オレが見ちゃなんか都合でも悪かったのか?」

「ぁあ?そんなんじゃねぇって、」

キョウヤはオレを見ない。
視線を逸らすのだ。
そのキョウヤの些細な行動に微妙な引っ掛かりを感じたオレは、思わず声を荒げた。

「あんな楽しそうなカオしてたじゃねぇかッ」

「楽しそうって  そう見えたのか」

オレのことも見ないで、一人でぶつぶつと何か呟き始めたキョウヤ。
アイツが誰だかも、教えてくれない。
否、オレには教えられないって言うことなのか?

「   もーいい!」

「オイ、  銀河ッ!」

慌てて呼び止めるキョウヤの声がしたが、オレは振り向かずに裏口へと走る。
そのままドアノブに手をかけて、押し開いた扉の向こう、外へと走り去った。





「オレって  ヤキモチ焼きだったんだな」
嫉妬心っていうのか

胸が痛い、じくじくとしたモヤモヤとした何とも言葉に表せないような感情がオレの心を支配する。
あの場所から逃げてきた先にたどり着いたのは、いつもの川原の土手。
オレはそこにうつ伏せに転がっていた。
空を流れる雲も何もかも見たくなくて。

オレはいつもキョウヤと一緒だと思っていた。
キョウヤは…オレのこと、飽きちゃったのかな…

そんな自分の考えがオレに追い討ちをかけてさらに胸の痛みを強くする。
苦しい、息が詰まるほどに。
あまりのその中から湧き出る痛みにオレは両手で胸を掻き抱いた。

「  ッ、ここにいやがったな   お前の行動なんざお見通しだぜ」

声が風に乗ってオレへと届いた。
少し、息のあがった声の持ち主は土手の上からオレを…見つけたらしい。
でもオレはうつ伏せのままで顔を上げることもせずにいた。
そんなオレの態度をキョウヤはどう思っているのか。
そう思った矢先。

「ちゃんと話ししてやる、だから来い」

その言葉にはっとして、オレは身体を起こした。
すでに身体を翻して、背を向けるキョウヤに銀河は唇を噛みしめる。

「   別れ話か ?  …キョウヤ 」  

己のついて出たその言葉にすら悲しくなってしまう自分が本当に嫌になった。






「これ飲め」

そういってキョウヤが持ってきたのは、オレの好きなカフェオレ。
甘い香りが鼻腔をくすぐると、その誘惑に勝てずにカップを持ち上げ口へと運んだ。
キョウヤは黙ったまま腕を組んで、カップを傾けるオレのことを見下ろしている。
その視線は居心地のいいものではなかったのだが気にしないように、平静を装ってゆっくりと飲み干す。
空になったカップを、ぎゅっと両手で強く包むと目の前で立ったままでオレを見ているキョウヤの姿を見上げた。
視線が絡む。
そこにあるのは、沈黙。
そんな中、先に口を開いたのはキョウヤの方だった。

「あのな、ちゃんと訊けよ   あの時オレと一緒にいたのは翼だ」

淀みなく、キョウヤは欲しかった答えを言い切った。
のだが。
出された固有名詞をすぐに理解することが出来ずにオレはキョウヤを凝視するに止まった。

「    は?つ、翼??」

「だから何度も言わせるんじゃねぇ、オレといたのは翼だ」

「ぅえ、え  えええッ?」
だ、だってポニーテールだったしそもそも髪の色だって違かったし、女の人だとばっかり思ってたのに?!

「…ちゃんと顔見てねぇだろ、   ったく、後姿だけで判断したのかよ」
まあ、驚くのもムリねぇか

キョウヤは困ったような、苦い笑みを浮かべて額に手をやる。

オレの思考回路が混乱し始める。
女の人ではなかったことは良かった。
…じゃあ、なんで翼なんだ。
オレに飽きて、翼と付き合ってたのか?!

ガチャンッ
中身のないカップを廃箱の上に乱暴に置くとオレはすぐ立ち上がってキョウヤの胸倉を掴んだ。
その時。
オレの頬に伝わる、生暖かいもの。
感極まったオレの感情は抑えるものが何もなく。
溢れたのは、涙。
視界がぼやける中、キョウヤが目を瞠ったのがわかった。

「翼だとしたら、何であんなカッコでキョウヤといたんだよッ」
オレだけじゃなくて翼とも付き合ってたのか!

オレのその台詞にキョウヤは慌てて頭を振った。

「ンなワケねぇだろッ」

「じゃあ何だってんだよッ」

さらにオレはキョウヤに詰め寄って、胸倉を掴む手に力を込めた。
声を荒げ、緩む涙腺もそのままに。

「罰ゲーム中だったんだよ、翼は!」

「   な、なんだ  って?」

「翼は遊とバトルして負けた罰ゲーム中だったんだよ」

苦々しげに口許を歪めて、吐き捨てるようにキョウヤはその時のことを話し出した。

「お前が見たのは翼と一緒にいたときだったよな… 少し前まで遊も一緒にいたんだぜ」

 ウィッグ被って、この服着て、ボクと街中一周!
 それが今回の罰ゲームってことだよ
 え、翼のこの服とかはギンギンのパパとヒカルが持ってきたんだってば
 へえ、タテキョーと翼って一緒に歩くとなんかお似合いじゃん
 タテキョーはギンギンのほうがいいってカオしてるけど
 じゃあボクは先に本部に行ってるから時間になったら戻って来てねー翼ッ

 …って遊はよりによってオレにあの翼を押し付けて行きやがったんだぜ
 翼も翼だ、アイツのクソ真面目な性格だから仕方ねぇのか
 律儀にあのカッコしてんだからよ
 オレは翼だと判ってっから、別段普段どおりにアイツといただけだぜ
 二人に口止めされてンだよ、  まあ今お前に喋っちまったが仕方ねぇな

キョウヤは口早に、その時のことを思い出しながら一気に話し切ったのだ。
その内容をオレはキョウヤの顔を凝視しながら、混乱した脳で理解できたのは少し間をおいてから。

「   悩んだオレって   」

ふっ、と手に込めていた力が抜けて掴んでいたキョウヤの服を離す。
あまりの結末に脱力し、オレはそのまま床にへたりこんでしまった。
しかも、みっともなく零れた涙はそのままで。
そんな姿をキョウヤはどう見てるのかと思うと顔が上げられない。

「へぇ   随分とヤキモチ焼いてくれたみてぇだな」

そこに、上から響いたキョウヤの声。

「うっさい!   全部オレの勘違いだったんだぜ  は、恥ずかしいに決まってんじゃん!」

恥ずかしさのあまり、オレは俯いたままキョウヤのことを見ることすら出来ない。
床に落ちる涙がぱたぱたと一箇所に染みを作るのを潤む瞳で見続ける。
すぐには止められない涙を恨めしく思いながら。

「  …オレはお前に随分と想われてるみてぇだ」
自惚れていいのかよ

キョウヤの言葉に思わずオレは頭を上げる。
青い瞳がオレを見ていた。
オレの勘違いでずいぶん振り回したのに、その色は優しさを湛えていた。
視線を合わせたままでキョウヤが膝をつき、座りこんだオレに身体を傾けてきて。
そのまま抱きしめられて、頬に残る涙の跡にキスされて。
最後にはもちろん、口唇さえも奪われていって。
抵抗も何も出来ないオレに、キョウヤは舌を巧みに使ってその口付けを深くしていった。

「オレの前も、隣も   全部お前の指定席だ」
誰にも譲る予定はねぇぜ

「   ッ!」

そっと離れた瞬間に鼓膜に響いたキョウヤの本音がさらにオレの脳をも溶かしていく。
もう一度、優しく触れ合わせてきた口唇を受け止めながらオレは素直に嬉しいと感じていた。
強く、抱きしめてくるその腕に身体を包まれながら。

「今日はごめん   キョウヤ 」

「バーカ、謝る必要なんかないぜ」

こうしてオレの誤解から始まったちょっとした騒動は、幕を閉じたのだった。






しかし、後日。
あの時の姿の翼と、オレはばったり街中で会うこととなるのだった。

「…驚かないんだな、銀河」

「   はは、キョウヤに訊いちまったからな」

「チ… また遊の云うとおりか」

「え?ナニそれ」

「キョウヤが俺のことを銀河に話すかどうかってコトだ」
やっぱり話してたんだな

「   遊…アイツ、スゲーな…」
ある意味最強ってヤツ?

「オレも   そう思う」






2011/10/29
starseekerさま。
ニアピン4999hitありがとうございましたv
ついったでお世話になってます!
ご心配もおかけしました。

オチ、こんなので…←翼も遊も好きですよー
お題はクリア出来た様な出来ない様な。
いかがでしょう…か?
おかしい所は直しますのでッ


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