記念ss

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「オレ、実家に帰らせてもらいます」

なぜ、そんな台詞を銀河が言ったのかさえ判らないまま夜になった。

「はっ、せいせいしたぜ…うるせぇのがいないと」

キョウヤはそう呟いた。
静かになった廃倉庫の中で一人ソファに座ったまま、天井を見上げたのだった。






「たっだいまー!」

前触れはなく。
突然の、大声とともに開けられた裏口の扉がばたんと勢いよく今度は閉められて。

「ぅげ!たった2日留守しただけで…なんでこんなに酒の匂いが…」

鼻腔にツン、と匂った独特の酒臭さに驚く。
声の主、銀河は両手に抱えるように持っていた荷物を床へと置いた。
そして、その中から一つだけ大事そうに手に取り中へと進んでいった。
そこには。
ソファの上で、寝転がるキョウヤの姿と周りに散らばる缶の数に銀河は眉を顰めて。

「…キョウヤ、寝てるのか」

そう言葉を掛けると、眠っていたかのように見えたキョウヤの瞼がゆっくりと開く。
銀河の姿を確認したキョウヤが、気だるそうに眠たげな視線を向けて喋りかけた。

「…お前、…帰ったんじゃなかったのか…」

「?そうだぜ、実家に帰るって言ったじゃん」
聞いてなかったのかよ、オイってば

「…ちゃんと訊いてたぜ…、だから…夢だろ…」

そう、一言銀河へと小さく呟くとキョウヤの意識が現実から遠のいていく。
重い瞼をそのまま閉じて、視界を遮断したキョウヤに銀河は話しかけた。

「夢ってなんだ?おーい、眠るなってばキョウヤッ」

銀河は、キョウヤがワケのわからない事を言ったことが気になり手に持っていた荷物を床へと置いた。
半分以上寝ている状態のキョウヤの肩を掴んで身体ごと揺さぶる。

「……夢ン中、…なのによ、うるせ…ぇ」

結構な力で揺さぶられても目は閉じたままで、キョウヤはそう言葉を綴ると静かな呼吸をし始めた。
そんなキョウヤの様子に銀河は一度、ふぅ、溜め息を吐くと肩を掴んでいた手を放した。

「…夢って…寝ぼけてるのかよ…、ふーん −いいこと思いついた」

銀河は、寝てしまったキョウヤを見て悪戯っこのような楽しげな笑みを浮かべるとその身をそっと屈めた。
呼吸をする彼の口許、銀河はキョウヤの顔へとさらに近づき自らの口唇を押し付けた。

「…キョウヤ、目、いい加減覚ませよ」

少しだけ出した舌先で、キョウヤの唇をぺろりと舐めると彼の飲んでいた酒の苦味が味覚として舌に残った。
銀河はその慣れない味に少しだけ顔を顰めたが、そのまま唇を押し当てる。
彼の閉じられた口が反応して少しだけ開いた。

「ん、…起きろって」

銀河はくすりと笑いを漏らすと、口唇は重ねたままで右腕を動かす。
その指先で彼の鼻筋の通った形のいい鼻を摘んだのだ。
銀河の舌はキョウヤの薄らと開いた隙間から入り込んで、綺麗に並んだ歯に沿って舐めていく。
トレードマークともいえる尖った犬歯に、銀河はことさらその舌先で弄って。

「…、−う ぅ…ッ」

鼻での呼吸を指で止められ、口も銀河が仕掛けた口付けによって吸うはずの酸素が堰き止められる。
苦しげな呻きをキョウヤが洩らした瞬間、閉じていた瞼が持ち上がってその青い瞳が露わになった。

「   −ッ!」

見開いた目で、自分に口付けている銀河の姿を確認したと同時に、上に覆いかぶさる銀河の顔をがしっと掴んだ。

「う、わッ!」

そのまま、キョウヤは銀河の顔を押しのける。
悪戯を仕掛けていた銀河の口が、キョウヤの唇から離れると漸くキョウヤは酸素を口から吸い込むことが出来たのだ。
鼻を塞いでいた指にも気づき、その手首を掴んで銀河を鋭い眼光で射抜いた。

「…ナニして …ッやが る −ッ!」

息苦しさで顔を赤くして、キョウヤは唸るように叫ぶ。
ぜーぜーと荒い、かつ深い呼吸を繰り返すキョウヤの胸は大きく上下して肺へと酸素を送り込んでいった。

「起きたな、やっと」

手首を掴まれたまま、身体を離すこともできずに銀河は酒臭い息を放つキョウヤに笑いかけた。

「…息、勝手に、止めてんじゃ…ねぇ ッ」

酸素を取り込めたとしても、飲みすぎた酒のせいでキョウヤの頭はまだはっきりと目覚めてない。
脳からの行動の伝達がうまくできず、身体はまだ起き上がらせることが出来なかった。

「キョウヤが悪いんだぜ、こーんな酒臭い息なんてオレはキライだっての」

銀河の、溜め息を吐きながらの台詞が視線とともに上から降ってくる。
さっき掴んだ顔、今掴んでる手首の柔らかい感触にキョウヤの脳は漸く眠りから醒めて。

「…夢、じゃねぇ…、本物の…銀河だ」

そう言うと、数度瞬きを繰り返して掴んだままの銀河の手首から力を抜いて放した。

「さっきから夢、夢って…まだ寝ぼけてるのかよ、オレは最初っから本物だぜ」

銀河は指先でキョウヤの頬をツン、と小突いてやった。
その小さな痛みを感じると、キョウヤは自分の視線上で笑っている銀河が本物だと確認したようだ。

「…『実家に帰らせてもらいます』…てめぇはそう言って、ここを出てったよな…」

キョウヤはあの時の台詞を、少々言いづらそうに銀河へと呟いた。

「うん、言った」

「…気が、変わったのかよ……戻ってきたってことは…」

「?気が変わったも何も用が済んだから帰ってきただけなんだけど」

キョウヤも、銀河も二人とも何だか会話が噛み合わなくて視線を明後日の方向へと彷徨わせていた。
あ、と銀河が思い出したように言ったのは。

「だって、嫁が実家に帰るときそう言うんだって教わったぜ?」

キョウヤは銀河の今の言葉を聞き、一度耳を疑った後。

「…は?……ば、バカかてめぇは!使い方が違うんだよ!言う状況がッ」

がばりと勢いよくソファから上半身を起こしたことで、驚いた銀河が思わず身体ごと後ずさる。

「もう!そんなに怒鳴らなくたっていいじゃんかよッ、だって父さんがそう言えって言ったんだぜ!」

至近距離で怒鳴られた銀河は、両手で耳を塞いでキョウヤを強く睨みつけた。

「あいつか…ッ、毎回毎回ロクでもねぇこと銀河に吹き込みやがる…ッ」

ぎりぎりと歯軋りをしながら、拳を握り締めたキョウヤの顔は獰猛な野生の獅子そのもの。
キョウヤを睨みつけていた銀河は、その物騒な顔にもものともせずに話しかけた。

「オレの言ったセリフってどんなときに言うんだよ」

「…あ?離縁すっときとかじゃねぇのか、普通」

「…離縁…?」

「世間一般にはそう認識されてるぜ…ったく…、嫌われちまったかと思っていたオレの身になれ…」

最後の方の台詞は、キョウヤ自身も知らず無意識に吐き出された言葉だった。
はっとして言った事に気づいたが、時すでに遅し。

「キョウヤもしかして…オレ、勘違いされちゃったのか」

「!!」

しまった、そう云わんばかりの表情でキョウヤは銀河の顔を凝視した。

「もうッ、…オレがキョウヤのことキライになったって思ってたのかよ」

その問いに、キョウヤは盛大に眉を顰めて口を固くへの字に結んでこれ以上何も喋らないという意思を見せた。
でも、銀河はさっきの答えをしっかりと胸に収めていて。
居心地悪そうにソファに座ったままのキョウヤに、銀河はとびっきりの笑顔で勢いよく抱きついたのだった。






「で、何しに村まで行ってたんだ、お前は」

「これ土産。村の地酒なんだけど…出来たって連絡あったから取りに行ってたんだよ」
…こんな酒くさいんじゃまだあげられねぇけどな

ソファの脇に置いたままの袋から、割れないように風呂敷でしっかりと包まれた一升瓶を銀河は取り出した。

「地酒…?」

「村に名人のじいちゃんがいてさ…最後の酒、墓参りを兼ねてオレが忙しい父さんの代わりに、な」

ふと、遠くを見た顔の表情を銀河は柔らかなものに変えて。
その横顔が寂しげに見えたのは、気のせいではないだろう。

「…そうだったのかよ…」

「だから、ちゃんと味わってコレ飲めよな?」
でもあの缶の山、きっちり片付けないとやらないぜ

銀河は、一升瓶をキョウヤの目の前でちらつかせると早速ゴミ片付けの催促をした。

「…口やかましいのが帰ってきたぜ…」

そう言いつつも、キョウヤの顔にはいつもの笑みが戻ったこと。

「あ、片付け終わったら酒飲む前に、オレとエッチしよ?キョウヤッ」

「…今日はオレも同じ気分だって事で怒鳴るのはナシにしてやる」






2011/12/17
7000hit、本当にありがとうございます。
記念シリーズの二人にしてはちょっと大人しい感じになりました 苦笑
サイト開設から6ヶ月を過ぎました。
来ていただける方々のおかげです!
まだまだ愛の限りッ書き綴りたい!

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