記念ss

□8000hit
1ページ/1ページ




「その格好は何の冗談だ、ぁあ?」

キョウヤの顔が、引き攣っているように見えるのは気のせいでもなんでもなくて。
外から帰ってきた途端に視界へ飛び込んだ、銀河の姿を見たせいでこのような顔になっていた。

「ちょ、これにはちょっとふかーいワケがあってな…」

何ともいえない視線に晒されながら、銀河は帰ってきたキョウヤにそう言い訳を始めた。

「…どんなワケだか知らねぇが…誰の趣味だ、それは」

明らかに侮蔑も含んだキョウヤの棘のある言葉にちょっとむっとしながら銀河はキョウヤを睨む。

「オレの趣味じゃじゃない事だけ、先に言っておいていいか?」

趣味を疑う銀河の格好とは。
誰がどう見ても、秋葉原とかにあるような「メイド喫茶」の店員さながらのひらっひらの可愛らしいメイド服姿だったのだ。






「ゲームして負けた罰…、バカじゃねぇのかてめぇは」

ソファにいつものように座ったキョウヤは、ソファに座らずに目の前で立ったままの銀河の言い訳とやらを聞き始める。
日中キョウヤがいない間に遊びに来た遊と翼、まどかとヒカルを含めて5人でボードゲームで遊んでいたらしい。
一番ビリっけつが罰を受けることになったらしいのだが、なぜこんなコスプレをすることになったのかは銀河本人も流されるままだったようで。

「だ、だってよぉ」

自分が負けるとは思わなかった、そう弁明する銀河にキョウヤはただただ失笑するしかなかった。

「だってもクソもありゃしねぇ…でも、よく見ると…へぇ」

手の届く裾の短いそのスカートを興味本位で捲り上げると、銀河の手がそれを阻むようにその裾を掴んだ。

「うわ!ばか!捲るんじゃねぇって!」

実は下着までも女物を身に着けさせられていることを知られたくなくて銀河は必死に押さえていると。

「…こんなモンがソファに落ちてたぜ?」

ぴらっと銀河の目の前に突きつけられた一枚の紙。
同時に裾を捲り上げようとしていたキョウヤの手が離れたことに安堵した銀河は小さく溜め息を漏らしてその紙をキョウヤの手から。


…キョウヤへ。
 成り行きで銀河がメイドさんの格好をしていますv
 キョウヤが帰って来たときにちゃんとこの格好でいたかどうか写メで私に送ってね〜
 いい機会だからメイドちゃんに命令してみたら?
 まどかより。…


「…まどかぁ…、これはひでぇと思うぜ…」

見せられた衝撃的な内容に、銀河はがくりと項垂れる。
この罰を受けないと、特製バーガーを今後作らないとまで言われて(脅されて?)仕方なく銀河はこの服を着ることになったのだ。
まどかとヒカルに着せ替え人形のようにこの服を着せられて(さすがに下着だけはどうにか嫌々自分で穿いたのだった)、この姿を最初に見た遊や翼の感想は。
「ギンギン、かっわいー!ボクの専属メイドさんになってよー」「銀河、その、何だ…オレより似合うな」とか言われたのだ。
「サイズもぴったり!さっすが銀河のお父さんよね」「ああ、銀河に合うのは『黒色だ』と言っていたが確かに似合う」とこの服の出所がどこだかわかるセリフも聞いてしまった。
挙句に「まだ脱いじゃダメだからッ、キョウヤにその姿見せるまでその格好でいてね」とまどかにとても強く念を押されて。
そもそもキョウヤがいつ帰ってくるかすらわからない状態でだ。
皆が帰宅した後、このままでいるかどうかを本気で悩み始めたとき。
キョウヤがここへ戻ってきたことで銀河はこの格好から解放されると思っていたのだったのだがどうやらその考えは甘かったようだ。

「てめぇはメイド、だろ?ご主人様の云う事を聞け」

「げ!マ、マジかよッキョウヤ!」

「キョウヤ、じゃねぇ。オレはお前のご主人様だ」

この状況をかなり面白がってる、それはもう見え見えな態度と顔で一目瞭然だ。
ソファから、下から見上げるその青い瞳がメイド服姿の銀河の瞳を射るように。

「オレに少し尽くせば、すぐ写メ撮ってやるぜ?」

そう言うキョウヤの右手に、WBBAから支給されている個人用携帯電話が握られているのを銀河は確認した。

「…もうどーにでもなれっての!……えっと、『ご主人様、ご用件を』」

そのセリフは棒読み、立ったままキョウヤを見下ろす銀河の顔はふてぶてしさが前面に出ていて。

「…愛想が足りねぇ上に態度がデカイ」

「ぐ、ンな徹底しなくたっていいじゃんかよ」

「ん?言葉遣いがなってねぇぜ…、口の悪いメイドってことにしてやるか」

キョウヤはそう言うと、足を組んでメイドとなった銀河に用件を押し付ける。
水持って来い、その雑誌を片付けろ、といつも言わないでも銀河自身が日々こなしている雑用だけをだ。
云い付けられた用件を銀河は、文句を言いつつも一つ一つきちんとその姿でこなしていく。
しかしその間、キョウヤは自分で言い出した事ながらメイド服姿で動き回る銀河を見て何となく落ち着かなさを感じ始めていた。
いつもはジーンズで覆われている白い足がミニスカートと太腿まで履かれたタイツの間から見えることや。
雑誌を片付けている銀河が屈んだ時、見えてしまったスカートの中身…女物の下着とか。(見えた瞬間、目を疑った)
…ようは、もやもやした気持ちを抱えてしまっていたことが原因だった。
そんな気分のまま最後の用件だとキョウヤが頼んだのは、空腹を覚えた腹を満たすもの。

「んじゃ、パイ生地残ってたからミートパイでいいか?ご主人様」

「あ、ああ」

いつもの名ではなく、ご主人様と呼ばれることに今さらながらむず痒さを感じてしまい口篭ってしまう。
自分でそう呼べと命じたのに、だ。
しかし銀河は気にした様子もなく、さっさとキッチンスペースへと向かっていった。

「…後姿だけ見てっと…銀河じゃねぇみてぇだよな…」

そんな事を呟いたキョウヤは、手に持ったままの携帯電話のカメラ機能を立ち上げて後姿の銀河の姿を試し撮りをしたのだった。






キョウヤがミートパイを食べ終えたのを見計らって、銀河がその空いた皿を下げに行った時。

ぱしゃッ!

無機質な機械音が聞こえ、そのことに銀河は皿を持とうとしていた手を止めてソファで携帯電話を構えたキョウヤに今日一番の笑顔を向けた。
携帯電話の画面を見ながらキョウヤはキーを数度打つ。

「今の写真をまどかに送ってやったから、もう着替え…ッぶ?!」

メールを送信し終えたキョウヤに向かって銀河が、その笑顔のまま飛び掛るように勢いよく抱きついたのだ。
その時、手に持っていた携帯電話を床へと落としてしまう。

「な、何だッ?!」

「…実はご主人様にお願いがあってさ?」

メイド姿の銀河の顔が近づくのに、抱きつかれたままのキョウヤはどきりとした。

「オレのことずっと見てただろ、知ってるんだぜ?…オレさ…ちょっと興奮しちまってる」

銀河はいつもと違うこの状況に、最初は特に何も感じなかったのだが徐々に興奮を覚えていて。
しかも、キョウヤが己を見る視線が気になってその感情はより一層に高まってしまっていた。

「…このまましようぜ」

挑発的な視線を放ちつつ、銀河がキョウヤの身体に手を這わせ始めたことにキョウヤは驚きながら。
その銀河の眼に、欲情のイロを含んでいたことをキョウヤは見逃さなかった。

「あ、ご主人様もオレのメイド姿に興奮…してた?」

銀河は口許に笑みを浮かべるとキョウヤの下肢の中心を、掌で軽く撫であげた。
その瞬間、キョウヤの口から歯軋りが聞こえた。

「 −ッ!どうなっても知らねぇからな!」

己に抱きついていた銀河の肩を掴み、その身をソファへと押し倒して組み敷く。
その時、銀河の口から出たセリフはキョウヤの情欲を煽るものでしかなかった。

「ご主人様、お手柔らかに…な?」






ちなみに。
キョウヤがまどかに送ったメールの添付写真はのちのち裏で高値で売られたことをこの二人は知らなかった。






2012/1/15
8000hitありがとうございます!
サイトに来ていただける方々に感謝します。
お約束のコスプレさせちゃいました。
記念シリーズの二人なので積極的な銀河が主導権を握るという事態に。
こんな二人ですが、まだ書き続けていけたら!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ