short
□熟睡願望。
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※長編夢のヒロインですので、奥村兄弟と同じ寮で生活しております。
しゃっしゃっ、と赤ペンが滑らかに迷いなく解答に丸をつけていく。
皆のテストがこれくらい楽だったらいいのに…
新米教師の僕にとって、
採点の際の一喜一憂の憂がどれほど胃の負担であることか…
しかしこの負担に慣れてしまっては教師として終わってると思う。
こんな気持ちの良い採点ができるのは勝呂君か侑花の解答用紙くらいだな。
せめて同室の兄さんくらいは毎日スパルタで指導してやってもいいのだけど…
「あの馬鹿兄……」
塾の授業と後片付けが終わり、夜の9時頃部屋に戻って兄さんを椅子にくくりつけようと思った、のに、
既におらず、
「まったく…もうすぐ日付が変わるっていうのに、どこいってるんだ…」
採点を終えた侑花の
丸しかない答案でさえ、今は慰めにならない
…はぁ、今頃侑花は勉強してるんだろうな。
彼女は努力家だから
無理しないよういつも言うのに
『その台詞、そのまま倶利伽羅で打ち返します。奥村君こそ無理してるでしょ。遅くとも1時には寝なきゃだめだよ?』
って、お母さんみたいなことを言う。
僕はいつも兄さんに対しあんな感じなのかと思う。
ていうか倶利伽羅の使い方間違ってるからね。
コンコン。
…ん?兄さん帰ってきた?
でも普通ノックしないよね。
反省の意を込めてのノックか?
ガチャ「遅かったね兄さんどこいって……っ侑花!?」
『夜分遅くに申し訳ございません…。あの、燐のベッド貸して欲しいんだけど…』
部屋にのそりと入ってきたのはちょっとお疲れ気味で眠そうな侑花だった。
というか、ベッド貸してって、しかも兄さんの……
「…まさか兄さん、侑花の部屋で寝てるの?」
『…そう、なんです。いや、でも起こすのはかわいそうだから…「駄目に決まってるでしょ。そもそもなんで侑花の部屋に兄さんがいるの。」
知らず知らずに眉間にシワが寄っていたし口調も少しキツくなってしまった。
だって当然だろ!
僕だってまだ侑花のベッドはもちろん部屋にすら入ったこと無いんだかr……
「…って違う!」
『っ!?なにが!?』
「はっ!…ごめんなんでもないよ。」
『?…あぁ、燐はね、勉強教えてくれー!って、私のとこに来たんだよ。雪男は忙しいんだ、って。』
「そうだったんだ…」
椅子にくくりつけようとしてごめんよ兄さん。
『そ。で、私が歯磨きに行ってる間に私のベッドで熟睡してたのよ。でも、燐3時間も勉強したんだよ?快挙じゃない?』
だからご褒美で侑花のベッドで寝るというのか…
僕なんか3時間の倍くらいやってるのに……
………いや待てよ?…ってことは侑花とこの部屋で一夜を共に過ごせるのか!
といっても二段ベッドだから……
「…って何考えてるんだ!」
『っ!?また!?』
「ごほん。……なんでもないよ。下の段のベッド使っていいよ。」
『ごめんね〜、ありがと。』
「こっちこそ兄さんが迷惑かけてごめんね。」
侑花がぱたぱたと近づいてくる。
椅子に腰掛ける僕の前で止まり、机を覗いた。
シャンプーの香りがふわりと届き、目の前に垂れる黒髪に無意識に手を伸ばしていた。
『?』
侑花がこちらを向き、さらりと手から髪が零れる感覚が気持ち良かったのと、その顔の近さに思考停止したのはほぼ同時。
『なに?』
「っなんでもない!今テストの採点中だったんだ!個人情報覗いちゃ駄目だよ!」
本日3度目のなんでもない。
『これ私の答案ですが……まぁ、先生は大変ですねぇ。何か手伝えることある?何でもやるよ。』
何でもヤ…?……馬鹿野郎!何考えてるんだ!
僕も健全な男の子であると実感した(黙
「大丈夫だよ。ありがとう。」
『っ大丈夫じゃないよ!何か手伝わせなさい!ほらもうすぐ1時だから!』
いつも大人しいというかクールというか冷静な侑花が珍しく声を上げ、気迫に負けてしまった。
…今日はせっかくだから彼女の優しさに甘えることにしよう。
「それじゃあ、この書類を一枚ずつ5頁の冊子にしてくれる?」
『うん!おっけ!』
手伝いがそれほど好きなのか。
普段はあまり見れない心底嬉しそうな笑顔を見ることが出来た。