short

□一枚上手。
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キーンコーンカーンコーry




生徒達の帰宅を促す鐘が響き、どの教室内からも今までの話し声に加わり、大道具小道具を片す雑音が聞こえてくる。


「では、工具などの細かい物は僕達が戻しておくので、大道具の片付けが終了次第帰って大丈夫ですよ。
今日もお疲れ様でした。
それじゃあ、また明日。」


私の教室からもその音は発していて、雪男は良く通る声をいつもより大にしてクラスの人達に告げる。



「おつかれ!侑花ちゃん、奥村君。またね!」


仲の良い友達は私にも挨拶してくれるが、ごく一部の女子は雪男にだけさよならする。


つまり、さっき言った"僕達"とは、文化祭実行委員の私と雪男のことであって、女の子に人気のある雪男と同じ委員会である私を疎ましく思う子もほんの少しはいるわけで…でも最近は慣れつつある。

別に友達が少ない訳ではないし、事前に覚悟していたから。


というか、実際私達は付き合っているわけで…


周囲の囃し立てや他の女の子の嫉妬を避けるために内緒にしてはいるが、

二人の時間をなかなか作ることが出来ないのは正直寂しい。


だから本当は既に揃っている色ペンを未だに探すふりをしてみる。



「侑花?何か足りないの?」


『うん。紫のペンがなくて…』


我ながら名演技!と思ったが、



「わかった。さくっと見つけて早く帰ろうか。」



……さくっと…?



……そーですか。早く帰りたいんですか。
わかりましたよぅ。





『あったあった。さくさくっと事務室戻してさくさくさくっと帰ろっか奥村君。』



「どうしたの?さくさくさくさく……で、二人の時は名前で呼んでよ。」



近づいてくる雪男に、そのせっかくの二人の時をさくっとで終わらせるな真面目がね!と言い返したいけど悔しいし恥ずかしいし、だから、なんでもないよ雪男に笑ってみる。


ちなみに真面目ガネというのは真面目とメガネを組み合わせt((ry


雪男は鼻で軽く溜息を吐いて、じゃあ行こうかとハサミなどが入ったカゴを持ち、私は5つの色ペンのケースを持って彼を追いかけた。


校舎内には私達だけしかいないみたいで少し気まずい……それは、さっき彼に悪態をついたせいだけど。それに一階の職員室には先生いるけど。


借りた工具を事務室に返し、再び教室へ戻る。

他愛もない話をしながら。

するとふいに手がぶつかり、雪男の方から手を繋いできた。


びっくりして咄嗟に彼の方を見ると勝ち誇ったような笑みを向けてきて、悔しくて笑い返して手を強く握り返した。

でも雪男の手が大きくてあまり強くは握れなかった。
一方的に繋がれてるみたいでまた悔しくなった。



…つくづく私は可愛くないなぁと思う。

赤面してみたり、手大きいねなんて言ってみたら少しは……なんて

そんなの出来ないしやったところで熱あるんじゃない?とからかわれるだけだ。



でも久しぶりの雪男の手の感触や温度を忘れないためにもう一度ギュッとしてみると雪男も同じく握り返してくれて、彼氏という存在が少しはずかしかった。



教室に着き、繋がれた手を離される前に雪男の手を引っ張り、空いている手で肩を掴んでめいっぱい背伸びして触れるだけのキスをした。

さっき色々悔しかった仕返しだぞと勝ち誇った笑みを雪男に見せつけた。


一瞬顔赤くなったかなと思ったのもつかの間……

真顔の雪男が迫ってきてついに壁と背中がくっついた。


なのにさらに顔を近づけてきて、私の頬に手を添えて、



自分でも顔が赤くなってると分かるくらい熱い。
熱あるんじゃない?と馬鹿にされる覚悟で雪男を見る。


「顔赤いよ?」


『うるさい。誰が赤くしてん…の…』


雪男があまりにも優しく笑うから息が止まってしまう。



近づく雪男の瞳から視線を逸らすことが出来なくてかろうじて目をつむると、唇が重なった。


静かな校内のせいで雪男の唇の感触がはっきり感じとれて、頬と肩に添えられた手からも体温が伝わってきて、いつまでも触れていて欲しいと願ってしまう。



名残惜しげに離れた唇は綺麗な弧を描き、


「可愛いよ。」


と優しく微笑む。



…一生勝てる気がしない、けど、負かされるのも悪くないと不覚にも思ってしまった。








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