英西
□チェックのマフラー
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好きだ。喧嘩ばかりしているけど、やっぱり俺はあいつの事が好きなんだ。
優しく微笑みかけたい。
その冷えて赤くなっている手を取り、暖めたい。
だけど、そんな事が俺にできるはずもなくて。
手持ちぶさたな右手はポケットの中。
「カークランドの家は、ほんまに寒いよなあ…」
「別にこれくらい普通だろ!だいたい、今は12月なんだ。寒いのなんて当たり前だ」
当たり前だ、とは言ったものの、ロンドンの冬はたしかに冷える。正直、今日の寒さは俺も堪える。
スペイン生まれ、スペイン育ちのこいつにとっては、なおさら寒く感じるだろう。
「うう〜寒いわあ〜。なんでもっと着込んでこうへんかったんやろ」
すっかり冷えてもうた、と両手にはあっと息を吐きながら歩く。
その様子に思わず見かねた俺は、自分が巻いていたマフラーを差し出した。
「ほら、これ使え。少しはマシになんだろ」
「え…ほんまに?ほんまにええの?…なんかお前に優しくされると、怖いんやけど」
「い、いいから!人の厚意は素直に受け取れよ、馬鹿!」
俺達は小さな頃から犬猿の仲だった。目の色が同じだ、という理由だけで殴りあいの喧嘩をしたこともあった。
顔を合わせてまともな会話ができるようになったのだって、つい最近の事なのだから、こいつがそう思ってしまうのも無理はないだろう。
「んー、やっぱり何も思いつかへん。俺、何かしてもうたかなあ…はっ、もしや呪いのマフラーか?そうなんか!?」
冗談混じりの言葉だとは分かっている。これを笑って流せれば、きっともっと仲良くなれるのだろう。
でも、この俺にそんなスキルなど、あるわけがない。
「呪いなわけねぇだろ!なんでこの俺がお前ごときにそんな面倒なことしなきゃいけないんだよ!頭までトマトみたいに柔らかいんだな!」
「なんやとクソ眉毛ぇ!そこまで言わんでもええやないか!!ほんまになんなん!?…そんなに俺のこと、嫌いなん?」