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□疼痛
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「い……ッ」

起きたとたん、あらぬ部分が痛かった。半身を起こしただけで痛みが走るとはどういうことだ。

「ったくあのクソボス、休みだと思って無茶しやがってぇ」

テラス窓から覗く外の景色は眩しいほど綺麗なのに、どうして朝っぱらからベッドの上で呻いてなきゃならない。スクアーロは今ここにいない主の顔を思いうかべ、考えつくかぎりで罵倒した。
せっかくの休暇だというのに、初日からこれか。

「クソ、文句言ってやる」

あちこちの痛む身体をどうにか宥め、スクアーロはベッドからのそのそと這いだした。

「やっと起きやがったか」

よろよろとリビングに入っていったスクアーロへ目を向け、ザンザスは片眉をあげてみせる。
主はスクアーロとは対照的に、やけにすっきりした顔をしていた。それも当然、昨晩、というより今朝がたまでずっと、思うさまスクアーロの身体を堪能していたのだ。

朝いちばんでシャワーでも浴びていたらしく、彼の髪はまだしっとり湿っている。ボトムだけ身につけて上半身は裸のまま、腹だたしいほどの男ぶりはラフな恰好でも少しも損なわれることはない。却って、体躯の見事さを際だたせてさえみせる。

「メシ、食うだろ」

よほど気分がいいのか、すでに朝食の支度まですまされでいる。

誰であれ他人を介在させるのが嫌で、二人きりで訪れたコテージだ。掃除も洗濯も料理も、どちらかが行わなければならない。たいていはスクアーロの役目だが、今朝は特別らしい。

年を経るごとに物臭になっていったが、ザンザスはもとが器用な男で、なにをさせてもソツなくこなす。テーブルの上には、ここへ来る途中に買いいれたバケットのスライス、チーズ、レバーのパテが並んでいた。

「卵どうする」
「つくってくれんのかぁ?」
「だから聞いてる」
「んじゃ、オムレツ」
「面倒くせえモンにしやがって」
「へへっ。あんたがつくってくれんのなんか滅多にないからなあ」

さっきまでの憤りなどどこへやら、スクアーロはくたんと表情を崩した。そろそろと気をつけながらソファに座り、よく動く主の姿を眺める。

「これ飲んで待ってろ」

ザンザスがカップにコーヒーを注ぎ、スクアーロのまえへ寄越した。芳ばしい香りにごくりと喉が鳴るが、スクアーロは喉の渇きにではなく、ぎゅっと眉を顰めた。

「飲めねえよ」
「あ?」
「尻が痛えんだ、コーヒーなんか飲めるかよ」

今日は刺激物は一切禁止だ。よもや旅行まえにルッスーリアが渡してくれたノンカフェインのお茶は、この事態を予測してだろうか。いやまさか。単なる偶然だろう。――と、思いたい。是非とも。

一瞬目を見開いた主に、恨みがましい視線を向ける。

「ああ、そりゃ悪かったな」
「言っとくが、今日はろくに動けねえからなあ。なにも期待すんなよ」

唇を尖らせて告げると、主が素っ気なく肩を竦めた。
しばらくして、ふたたびマグが寄越された。拗ねたまま口をつけると、温かくしたミルクに蜂蜜がたっぷり入っている。ほのかな酸味はレモンだろうか。

「どうせ休暇だ。好きにしてろ」
「へえ? いいのかよお」

あとが怖いなと思いながらも、甘やかされるのは悪くない。
この休暇のようなとろりとした蜜の味を、スクアーロはゆっくり味わった。
END
 

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