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□知らない幸せ(※R18)
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山本武がイタリアに滞在して、しばらく。総本部に詰めていた彼の元を訪ねてきたのは、昔と変わらないゴージャスであざやかな美貌に加え、このごろは貫禄さえ滲ませるようになった同盟ファミリーのボス、ディーノだった。
山本が滞在中と聞いて、顔をだしてくれたらしい。

ボスである沢田綱吉は日本を拠点に、先の争いであちこち歪んだ組織の立てなおしに奔走していた。そのあいだ、この地で彼の代理を務めているのは、念願の右腕と呼ばれるようになった獄寺隼人だ。
獄寺は生まれそだったこの国の流儀をよく知っている。ボスの代理として守護者の中では誰より適役なため、一年の大半をここですごしている。
当人にしてみれば、任された大役は嬉しいがボスに会えないのがつまらないと、なかなか複雑なようだ。

彼ほどではないが、山本も頻繁にこの国へ来ているほうだ。目的はただ一つ、師匠にあたる男に稽古をつけてもらうため。
かの人は同じボンゴレの名を戴いてはいるものの、実質はほぼ別という組織に属していて――なにせ、『独立』暗殺部隊、だ――なかなか会えないが、それでも山本の滞在を知れば必ず、どこかで時間を空けてくれていた。

今回は、まだ一度も会えていない。どうやら忙しいらしい。悪いなあと電話口で謝られたが、こちらは私用だ。仕事とあればしかたがない。スクアーロの都合がつくまで待つよと伝え、連絡を待っているところだ。

「スクアーロじゃなくて悪いね」

開口一番、ディーノはにっと笑ってそう言った。

「いいえ、とんでもないです」
「顔に『すごい残念だ』って書いてあるけど?」

年を経て、山本も表情を隠すのが上手くなった。けれど、昔からよく知る人たちのまえでは、やはり隠しきれないらしい。
訪問者と聞いて、実は少しばかり期待した。仕事か、大切な主に同行するのでもないかぎり、彼がけっして総本部には近づかないとわかっていても、つい。

正直な落胆を知られて、山本は潔く頭をさげた。

「……すみません」
「どういたしまして。まあ、俺も似たようなモンだからな」
「はい?」
「スクアーロにフラれた。美味い店があるからメシ食いに行こうって誘ってあったんだ。急な仕事だってさ。まったく」

ディーノはそう言って、肩を竦めてみせる。芝居がかったそんなポーズさえ、この伊達男にはよく似合う。

「ディーノさんもですか?」
「そ。急だったし、スクアーロは『子どものほとんどお遣いだ』ってぼやいてたから、おおかた、俺と約束したのがバレて、ザンザスが無理やり予定ねじこんだんじゃないのかな」

あいつは莫迦正直だから、なんでもかんでもザンザスに喋っちまう。おかげで、予定の2/3は潰されてるよ。
ディーノは、どうしてかさも可笑しそうに言った。

山本にはわからない。どうしてそこで笑えるんだろう。スクアーロが相変わらず、ザンザスにふりまわされているということだろうに。彼のために怒ったりはしないんだろうか。

(よくわかんねえや)

どうも、この人たちのことはわからない。山本はしかたなく「はあ」と曖昧な相槌を打った。ディーノが、ますます笑みを深める。

「わからない、って顔してるな」
「ええ、まあ」
「スクアーロが気の毒だって思うんだろ?」
「だって、予定入れてたんですよね」
「断ろうと思えばできるさ。言っただろ、子どものお遣いだって。あいつらの報酬は莫迦高いんだ、なにもそんな木っ端仕事なんてしなくていい」
「でも――」
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