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□苦い温い甘い
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日本にはお中元だのお歳暮だのという習慣がある。夏と冬、世話になった人へ贈りものをするのだと、山本武が言っていた。骨の髄まで体育会系にできている彼は、クリスマスに誕生日、お中元にお歳暮と律儀にいろいろ送ってくるが、毎回のどれもが必ず、スクアーロのツボを突いた品物ばかりだ。

山本は不器用そうに見えて、案外と目端が利く。
暢気に笑っていた十四歳のガキの姿は消え、どこか暗い陰を背負ったマフィアらしい男にはなったが、スクアーロのまえでは相変わらず、出会ったころのクソガキに戻った。
いつも全開で笑って抱きついて、甘えて拗ねて殴られた。スクアーロといる山本を見た日本の連中が、いったいなにが起きたのやらと、ぎょっとするほどの変貌ぶりだ。

その日、ボンゴレ総本部を経由してヴァリアーにとどけられたのは、ずいぶんと大きな箱だった。
ボンゴレの専用ジェットで送られてくる荷物は、非公式だが税関をとおらない分、なんでも送り放題だ。
持参した使者は「慎重に運べぜったい揺するな」と厳命されたらしく、顔面を蒼白にして、まるで国宝の輸送でもしているかのような様子でそれを置いていった。

「さあて、今回はなに送ってきやがったんだあ?」

荷物がとどいたと報され、スクアーロが会議室に顔をだした。名目上は会議室とされるその部屋が、会議に使用されたことはただの一度もない。
会議用のテーブルはいつのまにかダイニングセットにとってかわり、ソファセットに大画面テレビモニタ、挙げ句にバーカウンターまでつくられている。
使用目的は、今や暇な幹部が集まってだらだらすることへとすりかえられていた。食堂も談話室も他にあるのに、面倒だからというそれだけで、たいていのものごとがここですまされる。

「ちょっとスク、ゴミ散らかすのやめなさい」
「ちゃんとあとで片づけるからよお」
「そう言って、あんたすぐ忘れるでしょう」
「いつもボスの部屋片づけてんの俺だぞ?」

そうよねボスに関してあんたが忘れることなんてなに一つないわよね。
ルッスーリアは嫌味の一つも言ってやりたいのをぐっとこらえ、代わりにながながと嘆息した。

「んだよぉ」
「まあ、いいわ。もし片づけるのを忘れたら、きっつい罰が待ってるから覚悟してなさい」
「おっ、いいモン送ってきやがったなあ」

スクアーロは箱の中味を探るのに夢中で、ろくに聞いていないようだ。

箱の中には大量の日本製缶ビールと日本酒が入っていた。あちらでスクアーロが呑んで、美味いと言っていたのを憶えていたのだろう。

「よおし偉ぇぞクソガキ。あとは……、なんだこりゃ」
「浴衣じゃないの」
「おっと、全員分あるみたいだぜえ」

畳まれた浴衣をひっぱりだし、スクアーロは床に広げた。

「いちばんでかいのはレヴィだろ。っと、このサカナ柄のが俺んだな。ルッスはなんだ、花かあ?」
「あら綺麗ねえ」

ルッスーリアは清楚な朝顔の柄の浴衣を手にとった。

「了平ちゃんたら、私のことわかってるじゃないの」
「……どこがだ?」

むくつけき筋肉を誇るド派手なオカマに、清楚な花柄。なにがどう「わかってる」やら、スクアーロは真顔で首を傾げた。

「なによあんた文句あんの!?」
「ないない! すげえ似合ってるぜえっ」
「今さら遅いわよ。まあいいけど」

いいなら言うな。
ルッスーリアの文句を聞きながし、スクアーロはそこら中に散らかしたものをごそごそと掻きあつめる。それらを抱えこむと予備動作なしで立ちあがった。

反動をつけずに動くなど基本中の基本だが、スクアーロの驚異的な運動能力はヴァリアー内でも群を抜く。その動作は淀みなく流れるようで、見ていてとても美しい。

まったくね、これで中味がもうちょっと静かで、もうちょっとオトナだったら、言うことなしなんだけど。

年々凄みを増していく美貌、生来の美しさには艶やかさが加わり、以前は薄いばかりだった体躯にも絶妙な具合になめらかな筋肉がのっている。
ベルフェゴールなどは盛装したスクアーロを見て、歩く公害だと言った。見た目の美しさと艶めかしさがまず目の毒で、中味を知ったあとにはギャップのひどさで致命的な打撃を与える、だそうだ。
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