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□掌人掌
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それよりも、シンがそうやって触れたことの方が不快で。
その夜はシンが触れた場所にただひたすら唇を寄せて消毒をした覚えがある。
くすぐったさに身をよじり、くすくすと笑っていたゆきじるしは、またキラキラしていた。

握られた手のひらを包み込むようにして――ハヤテの方が勿論手が大きいから当たり前なのだが――握ってやると、少しだけ小さな体をこちらに寄せるようにしてゆきじるしが歩く。

「あと何か買いたいのある?」
「んー、お前は?」
「私が先に聞いたのー、答えてよー」

見上げてくる瞳は純粋無垢にキラキラと瞳を誘う。
それに返すように柔らかく見つめてやり、掌をぎゅ、ぎゅ、と握ってやると、今度は不満そうに頬を膨らませて見上げてくる。
ハヤテのために何かしてあげたい、という願望がありありとその瞳には浮かんでいる。

(やべ、可愛い)

自分の顔は今少し赤いだろうか、と気にはなったものの、この表情を一分一秒と見逃したくはない。
そんな気持ちが顕著に出ていたのか、睨んでいたゆきじるしがきょとんとした表情になった。

「え、何か私の顔についてる?」
「いや」

慌てて、自分の顔を触ろうとするが、片手は紙袋、片手はハヤテと繋いでしまって空きがなくあたふたとしはじめる。
それをぎゅ、と握った手の力を強めてやることで制止してやり、少しだけ身を屈めてその耳元でそっと囁いた。

「可愛いから見惚れてた」
「…っもう!」

今度はゆきじるしが真っ赤になる番だった。
そろそろ夕日が傾きはじめ、少しだけ周りが夕方の色に染まってきてはいるものの、ゆきじるしの耳の赤さには遠く及ばない。
恥ずかしさからふいと顔をそむけてしまっても、髪から覗く耳の赤さだけは誤魔化せない。

そんな様子を思わずと緩む口元をそのままに眺めて、それでも離そうとしない彼女の手の甲を優しく指でさすってやりながら、ゆっくりと歩き続けた。

「買い物は特にないが、お前と散歩してぇな」
「そう?よかった、私もそうしたかったの」

ハヤテの言葉に、嬉しそうにはにかむゆきじるし。
その様子はお気に入りの散歩コースに連れて行ってもらえる子犬の喜びを表したようで、もし尻尾が付いているならちぎれんばかりに振っているに違いない。

ハヤテは困ったように眉尻を下げて、微苦笑した。
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