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□きっとずっとこんな感じ
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目を閉じれば静かに波が打ち寄せる音が耳に届く。そのリズムに合わせて僅かに船体が揺れることも、今となっては慣れてしまった。
初めてこの船に乗ったときに一番辛かったこの揺れも、逆に揺れない地面に立てば懐かしくなるほど。

他にも慣れたことはたくさんある。
例えば。

「おはようございます、ナギさん」

まだ日も昇りたてのこの船で一番の早起きであろうこの男、ナギにまず挨拶をする。

寝起きだからだろうか――いつもの無愛想さに少し迫力がないのを、こうして見抜けるようになったこともきっと慣れに違いない。

「…あぁ、おはよう」
「よく寝れた?」
「あぁ」
「そう、よかった。じゃあ私は朝の掃除をして来ます」
「あぁ」

彼は決して自分の縄張りに他人を踏み込ませない。入り込んだ船員の辿る末路は知っているので――これも慣れ――さっさと船の掃除に取りかかる。

夜から朝にかけての気温差で、船に染み付く水気を拭き取る。これで船の持ちがよくなることを、優秀な航海士から聞いてから、なるべく毎日するようにしている。
これからもお世話になる船だ、しっかりお礼をしなくては。

そんな仕事を始めて数分、背後にあくび混じりの声が投げ掛けられる。

「やぁ、おはようゆきじるしちゃん」

声の主に振り向くと、あくびをした口許を手のひらで覆い隠したソウシが目元でにっこりと笑っている。

「おはようございますソウシさん」
「毎朝ご苦労様だね、手伝おうか?」
「いえ、もう終わりましたから」
「そう?じゃあ私は昨日干してた薬草擦ってこようかな」
「後で私も手伝います」
「そう?ありがと」

すっかり水気を吸ってしまった雑巾を手に笑い返して、いつも優しい紳士のもとから離れる――最初はこの粗暴な船の中で唯一優しい言葉であって、ドキドキしたものだが、慣れたのだろう。

そして向かうは洗面所。この雑巾をしまってこなくてはいけない。
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