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□二度目の逢瀬ですね
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日照りは高く雲はまばら。波も穏やか。
風も荒れてはおらず僅かに吹くばかり。
少しずつ進んでいくような航海に、船員たちの気分も和らいでいるようだった。

「――ゆきじるし、いるか」
「はい!」

そんな中、ある男の声がゆきじるしを呼んだ。
珍しく名を呼んでくる声に驚いて思わず大声で答えてしまったゆきじるしが、慌てた様子でぱたぱたと操舵室へと向かう。
操舵室の主は、隠していない片目を不機嫌そうに細めていた。

「どうしましたかシンさん」
「お前、生贄になるか」
「い、生贄!?」

いきなりのシンの言葉に思わず面食らったように裏返った声を上げたゆきじるし。
その様子をしばし眺めていたシンだったが、すぐにぽつりと「冗談だ」と告げた。

「あ、あの…冗談がきつい、です…」
「言葉を間違えた、犠牲というべきだった」
「どっちも変わりません!」

シンの言葉に噛みつけるようになったのは最近のことだ。
最初の方はびくびくと彼の言葉に怯えてばかりだったというのに、今では頬を膨らませながら不平を零す様子は、年相応より少し下に思えるほど子供じみていて――少しだけ可愛いと勘違いをしそうになる――ナギがこんな子供を好きになるとは思えなかっただけに、この勘違いだけは認めたくないシンである。

目の前のスコープを手渡して、シンは続けた。

「見てみろ」
「あ、はい」

渡されたスコープを覗き込んで――口が少しだけ開いている阿呆面を上から見下ろしながら、シンは言う。

「ロイの海賊団だ」
「…」

スコープから覗いた先に見えたのは黒い船体――あの悪趣味な船の色は間違いようのないロイの船である。
どうやら海の中央に停泊しているようにも見える。波に揺られて船体が浮いたり沈んだりを繰り返しているものの、進んでいる様子がない。

どうしてこんな海の真ん中に、と疑問に思うが、その疑問の答えは簡単だった。

「人身御供となってこい」
「だからなりません!!」

きっとあの船の中では今頃、ロイが愛しのゆきじるしが云々といって待っているのだろう。
それを想像して、冷たい汗がゆきじるしの背中を流れる。

「あの…船を迂回させることは」
「風がない、無理だな。どうあがいてもぶつかる」
「そんな!シンさん!あなたほどの航海士が!お願いします!」
「うるせぇ」

マジで犠牲にすんぞ、と付け足して、シンが乱暴にゆきじるしからスコープを奪い取る。
そうは言う間にどんどんと距離を詰めていくシリウス船に気付いたのか、ロイの船がこころなしか近づいてきているような気もする。

「うう…」
「ま、諦めるんだな」

がっくしと肩を落とすゆきじるしにかけてやる言葉などない。
肩を竦めて航路をとるシンの声に続いて、ばたんとドアが開いた。
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