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□prologue
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「ついに、処刑の日か」

今朝の食事はスクランブルエッグ、サラダ、ベーコン、トースト、と彼らにしては珍しく量の嵩まぬものであるのには勿論理由があった。

この船の優秀な航海士は新聞を読むのが日課である。
なぜなら、航海士として必要な知識は天候だけにとどまらない。
向かう先の島の情勢や、政治、外交、はたまた流通ルートなどまでも把握することが仕事となっている。

シンはいつもそれを、無口なコックに対しての最低限の礼儀として、朝食の前後の時間に済ませることにしているのだが、どうやら今日は朝食前に読んでいた新聞に興味がそそられる内容でも含まれていたらしい。
わざわざ古新聞を引っ張りだし、ほんの小さな切抜きまでもを挟んだ冊子を食卓に積み重ね、それを片手に食事をしているのである。

よって、“片手で食事ができるもの”、これが今日の朝食のリクエストだった。

食事には口うるさいコックではあったが、彼の知識なしで航海できぬことも知っているので、少し仏頂面になる程度で、そのリクエストには優しく応えたのである。
そんなシンがコーヒーを片手に、眺めていた古新聞をぱさりと食卓に投げるように置いてから、溜息交じりにつぶやいた。

「何の話だ?」

今の今まで無言で新聞を読み漁る彼に、話しかけようとする空気でないことは言うまでもなく、周りで声を立てることすら憚れる雰囲気に押し黙っていたハヤテが、その言葉に問い返す。
他の面々もその言葉に合わせて興味を持ったようにシンへと視線を向けた。

「非常に珍しい話だ」
「いったい誰が処刑されるんだい?」

同じく食後のコーヒーをゆっくりと嗜んでいたソウシがいつもの優しげな顔で問いかける。
海賊が他の同業者の処刑に興味を持つことは珍しくない。
それを、珍しいと評す理由にソウシ以外も興味を持ったようだ。

自分の話に興味を持つ面々を見渡して、いつもの飄々とした表情に満足そうな色を浮かべたシンは、もったいぶって口を開いた。

「まず、処刑はモルドーではされない」
「え?」

その言葉に、ぽかんとした表情を皆が皆浮かべた。
少し不機嫌そうだったナギも、目を見開いて驚いている。

それもそのはずで、彼は処刑されそうになった過去を持つ男である。
その場所はモルドー帝国。この世界を牛耳る帝国で、見せしめのためともいえる大きな処刑台を持つ国である。
大抵の海賊、ならず者たちはその組織の大小を問わずモルドーで処刑されるのが規則となっている。

それが、なぜモルドーでなされないのか?
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