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□episode.5
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「さて、今後をどうするかだ」

まるでこの時を待っていたかのように口を開いた船長の言葉は、なにごともなかったような平穏さを持っていた。
まるで今晩の献立を決めるぐらいな簡単な、当たり前とばかりの口調である。

「当然、どこかの港で海軍に突き出します」

打てば響くようにシンが不機嫌そうな声で答えた。
それに対して珍しくソウシが少しばかり怒ったような声を上げる。

「シン!」
「ドクター、あなたは優しいかもしれないが、俺はそうじゃない」

どうやらシンとしては、不機嫌な理由が他にもあるようだ。
ゆきじるしの傍に置いてあるテーブルに、ばん!と勢いよく掌を乗せて、彼の険しい表情を真正面からソウシへと向ける。

「敵か味方かもわからない奴を乗せておけるほど、俺たちは善良な市民じゃねぇ、海賊だ!」
「なら、こいつも海賊だぞ?」

3000万のな、とリュウガは付け足した。
しかしシンは納得できないとばかりに頭を振る。

「確かにそうです、が、俺はこいつが元海軍だってことも知ってる」
「…そうだな」

シンの言葉に同調したのはナギだった。続けてトワも、恐る恐るといったように頷く。
あの店主の言葉が本当ならば彼女は元海軍なのだ。

「ドクター、あんたの言ってることは間違いはねぇと思う、この女は60年も仮死状態にあったのかもしれない。が、それの理由がわからなきゃ俺は信用できねぇ」
「…それは」
「モルドーの地下の実験室?あいつらのことだ、そんなものが置いてあることに驚きはしねぇよ」

苛立ちを含んではいるものの珍しく饒舌な彼の言葉に反論する者はいない。
誰もがいつもの冷静さを抑えられないシンの言葉に聞き入っている。

「だが、その女が何故今になって処刑されそうになったのか、何故海軍の地下に閉じ込められていたのか、その謎が解けなきゃ今度は俺たちまでもが狙われる」
「誰かに狙われることなんて日常茶飯事だろ、シン」

シンの言葉にハヤテが困ったように口を出した。
少し熱くなりすぎている――いつもならば熱くなりすぎるハヤテに冷静さを埋め込むシン、という関係のはずが珍しく逆転している様子を、他の船員は黙って見ていた。

「今更急いでどうこうするこたねぇじゃねーか」
「お前の頭は空っぽかハヤテ」
「んだと!?」
「お、落ち着いてください!」

しかし、それもすぐに元の関係に戻ってしまったらしい。
冷たく見据えるシンに掴みかかろうとするハヤテを、慌ててトワが引き止める。
シンは少しは落ち着いたのか、気がつけばいつもの表情に戻っていた。
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