たんぺん

□星
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「星になる…って言葉英語には存在しないんだね。」


唐突にそう話した。
なんで急にそんなことを言ったのかはわからなかったけれど。
すると君は不思議そうな顔をして、有名になるってこと?
そう尋ねてきた。


私は否定した。

「じゃあ、どういうこと?日本語の表現なの?」

そうきかれたけど私は秘密、そう言って適当にはぐらかした。


何時も君は私の隣に居て、そんな他愛のない話をした。
時に笑い、時に泣き。ふざけ合ったり、一緒に勉強もした。
小さな言い合いはあっても何故か私たちは一切喧嘩なんてしたことがなかった。
君の隣は落ち着く−

友達以上恋人未満な私達。ずっと続くと思っていたし、そうだった。これからが私達にはあると思って、僅かに芽生えていた想いを曖昧にしたまま時を過ごした。
卒業しても会えると思って。本当はずっとずっと奥深くに、ずっと一緒であれば良いのにな、なんて思ってたのも事実だった。けれど、君は貴族で私は一般人。君には確かな未来があって、私には何もなかった。だからどうか友達のままであれば良いのになって思ってた。けれどね、君はその私の願いを覆してしまったんだ。

どうして何処かへ行ってしまったの?

何年も一緒の時間を隣で過ごしてきたんだもの、わかるよ。君はね、もう二度と私の前には現れない。そのくらい何にも教えてくれなくてもわかるよ。

わかってる、知ってる。君はね、優しい。君はね、強い。だからすべてを抱えていなくなっちゃったんだ。苦しよ、君の優しさが。ひどいよ、その強さが。少しは分けてくれたっていいじゃない??独り占めなんてしないでよ。少しは頂戴よ。

何故青春とは青いと書くのか。
あの時は全然わからなかった。あの時の自分はその青さを自覚できずにいた。けれど、今なら痛いほどによく分かる。どうして青い春しか過ごせないのだろう、過ごせなかったのだろう。もしできるのなら、もう一度あの時に戻って自分に正直であれと言いたい。言葉にしなければ伝わらないということを、あの日の自分に教えなければならない。

誰かが言った、

青年のもつエネルギーは何かを恐れているようでは、何事も成し得ない、と。



あれからずっと日が経って、君と最後に別れた時、空には星が降っていた。

今空を見上げた。そうしたら、君が居た。少しだけ君の居場所がわかった気がしたんだ。



星になったんだね。









青年のもつエネルギーは、
傷つくことをおそれているようでは、何事もなし得ない。

田宮虎彦(1911-1988)

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