落花論

□背中合わせの針ネズミ
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クラス内の交流を深めるため、という名目で席替えが行われたのは、朝のホームルームの時間帯であった。

もちろんそれは単なる表向きの理由に過ぎない、とクラスの全員が分かっていた。

4月のクラス変えから約1ヶ月ほど経過した今も、名前順の席のままではつまらない、という反発の声はずっと上がり続けていたからだ。

いちいち文句を言われてきた担任もついに面倒になったのだろう。

一年間は席替え後の座席で固定するからな、と前置きをして、クラス委員にくじを作るよう言いつけた。



(別にどこでもいいや。教壇に近くなくて、黒板が見やすくて、余ったプリントを返す面倒がなくて、窓に近い席なら、どこでも)



なんて無欲からは程遠い希望を頭に浮かべ、僕も教壇に散らばったくじの一つを引いた。

開いたくじの番号と黒板に書かれた座席表を見比べると、残念。

窓際の席だが、前から2番目になってしまった。

あまり授業で当てられないといいなあ。



クラス全体で机と椅子を移動させると、それはもう騒々しい音が朝の光が差し込む教室に溢れた。

他のクラスの迷惑になるから、もう少し静かに動けと担任が怒鳴るけれど、その怒声の方がうるさいのはお約束だ。



移動が終わり、よく一緒にいる友達と離れてしまったことに気づいた僕は少し落ち込んだ。

抜け目のない女の子たちは、仲の良い者同士で固まろうと教室の後ろでこっそりくじの交換なんかもしていたのに。

うーん、ぼんやりしてしまった。







「前、上野か。よろしくな」



声をかけられ、教室全体に向けていた視線を背後の人物に移し、僕はぎくりと固まった。



「あっ……、よろしく。栗山」



そう言って軽く首を傾けると、栗山も頷いて口端を上げてくれた。

そんな些細な表情が、男の僕でも少しどきっとしてしまうくらい恰好いい。



きりっとした精悍な顔立ちで背も高い栗山は、恐らくこのクラスで一番女の子の視線を集める人間だ。

男らしいはっきりした性格で、ちょっと無愛想だけれど、そこがまたクールでいいと黄色い声が上がる。

校内でもモテる男ランキングのかなり上位に入るんじゃないかな。

明るく色を抜いた髪は少し長めで、いつも流行りの髪型に整えられている。



(近くで見ても恰好いいなあ)



栗山にこんなに近づいたのは初めてで、思わず綺麗な顔立ちをまじまじと見てしまう。







くっきりした二重の目は吊っても垂れてもおらず、伸びやかな弧を描いて僕を見ていた。

目力があるというか、白目が澄んでいるというか、とりあえず印象的な瞳だ。

小顔にバランス良く配置されたパーツもそれぞれ整っていて、人生は平等じゃないとしみじみと感じる。

意思の強そうな眉毛、細く真っ直ぐな鼻。薄く形のいい唇から覗く白い歯は歯並びもよくて芸能人みたい。



同じクラスでも住む世界の違う相手っていうのは、いつの年齢でもいるものだ。

栗山は僕にとってまさにその手の人間だ。

今までほとんど話したこともない。



こういうタイプの相手にはちっぽけな自尊心がちくちくと痛むので、あまり近づきたくないというのが僕の正直な気持ちだ。

こんな男になれたらいいだろうなあ、と憧れる気持ちはあるけれど。

いくら席が近くても、これまで同様、そうそう関わりになることはないだろうと思っていた。




 
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